遠くで終業の鐘が鳴る。その音を聞きながら膝の上にある温もりに手を伸ばす。ふわふわとした髪を指に絡めて遊んでいると、擽ったそうに細められた翡翠色の瞳と目があった。

「授業終わっちゃいましたね」

「そうだね」

「明日の小テスト、出来なかったら総司さんのせいですからね」

ワザと拗ねたような声音で呟いて見せる。膝の上の温もり――総司さんはいつものように悪戯っぽく笑った。

「千鶴が小テスト出来なかったら、僕が教えてあげるよ」

「……本当ですか?」

「なにその間。僕の言うことが信用出来ないの?」

「そういうわけじゃないですけど……」

お互いに顔を見合わせてくすくすと小さく笑い声をもらす。それは遠い昔、確かに夢見ていた優しい未来だった。

「またこうやって総司さんと一緒に居られるだなんて夢みたいで、ちょっと怖いです」

ぽつりと本音を零してみる。

桜の舞い散る木の下で再開を誓い合った遠い昔。あれから幾年過ぎてもこの想いは変わらない。

優しい光を宿した翡翠色の瞳だとか、壊れ物を扱うように触れてくる温かいその手だとか、愛の言葉を囁いてくれるその声だとか、全てが総て愛おしくて堪らない。

でもだからこそ考えてしまう。この優しい世界が全て夢なのではないのかと。生まれ変わったその先でもまた出逢えるなど奇跡に等しいのだから。

そう言うと総司さんは困ったように笑う。私に向かって伸ばされた手が頬に触れた。温かい。

「馬鹿だね、君は」

「な、馬鹿って……」

「僕は怖くなんかない。例え夢でも何でも、千鶴が傍にいてくれるからね」

「総司さん……」

「千鶴、君は違うの?」

「……違いません」

よろしい、と偉そうに総司さんは笑う。その笑顔にひどく安心した。

「僕は此処にいる。僕の隣には千鶴がいる。それ以上何もいらないし、何も望まない」

「私も、です」

小さく微笑む。総司さんがゆっくり起き上がった。

「ねぇ千鶴。君が卒業したらさ……」









その先の言葉は重ねられた熱に飲み込まれて消えた。



















090523/有海

10000hit企画.沙雪様へ。沙雪様のみお持ち帰り、返品可能です。遅くなってすみません。転生学パロとのことでしたがいかがでしょうか…!!

それでは企画への御参加有難う御座いました!!
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