総司さんの手は魔法の手だ。私と同じ手であるのに、夢の具現化であるようなキラキラとしたお菓子を沢山生み出していく。
本当に魔法使いみたい…――。
そう思いながら総司さんの手元、もとい総司さんの仕事姿を飽きることなく見つめ続ける。仕事に没頭しているのか総司さんがこの視線に気付かないのが少しだけ寂しいけれど。
「(うわ、美味しそう…)」
お皿に綺麗に盛り付けられたのは苺のタルトだった。今までに見たことがない物だったからきっと新作なんだろう。
「(食べてみたいなあ…あ、でも売り物だから駄目だよね…)」
悶々と考えているとクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。慌てて顔を総司さんの方へ向けると案の定とても愉快そうに笑っている。
「…何で笑ってるんですか」
「いやだって千鶴ちゃん、エサを前にした子犬みたいな顔をしてたから」
「そんな顔してましたか!?」
思わず手を頬に当てて確かめてしまう。そんな私を見て総司さんはまた面白そうに笑った。
「はい、これ。食べていいよ」
「え、いいんですか…?」
「うん。僕の新作、やっぱり千鶴ちゃんに一番に食べてもらいたいから」
「あ、有難う御座います…っ」
頬に集まる熱を隠すように下を向く。そんな私をお見通しであるような素振りをした総司さんは、先程まで夢を紡いでいたその指で私の顎を掴んだ。視界一杯に総司さんの悪戯っぽい笑みが広がる。
「その代わり僕には千鶴ちゃんを頂戴…ね、いいでしょ」
「な、ななな、」
上手く言葉にならない。きっと今私の顔は真っ赤だろう。
それでも何とか非難の言葉を紡ごうとした唇は容易く総司さんに捕らわれてしまう。
にこりといっそのこと清々しい程の笑みを浮かべた彼にきっと私は一生勝てないんだろうなと、次第に溶け出す思考の隅で考えた。


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