「あれ、千鶴?」

昼間。何時ものように巡察に付いて行く為の準備を終えた千鶴はぱたぱたと小さな音を立てて屯所の廊下を小走りに駆けていた。そんな姿に小さな小さな違和感を覚えたのか、偶々廊下を通りがかった原田が千鶴を呼び止める。隣に並んでいた藤堂が不思議そうな顔をした。

「どうかしましたか?」

きょとんと首を傾げる千鶴の高く結われたその髪に原田は手を伸ばす。触れたのは薄い桃色に染められた結紐。この紐は昨日まで赤かった筈である。

「結紐、変えたんだな」

「お、ほんとだ。昨日は確か赤かったもんな―」

気付かれた事が嬉しいやら恥ずかしいやら、千鶴は頬を薄く赤く染めて原田と藤堂に問う。さながら可愛らしい小動物のようだ。

「その、変じゃないですか?」

「全然!!寧ろすっげー似合ってるって!!な、左之さん!!」

「あぁ。こういう色も似合うんだな」

二人の率直な褒め言葉に千鶴は更に頬を赤くて嬉しそうに笑う。そんな千鶴を見て原田は緩く微笑みながら一言告げた。
「気付いてもらえるといいな」

その一言に一瞬呆けた表情をするも、千鶴は花が開くように綺麗に笑って頷く。隣の藤堂がまた不思議そうな顔をした。







「千鶴ちゃん、遅いよ」

沖田さんの声を聞いて慌てて傍に走り寄る。原田さんと平助くんと話していたら予想外に時間が経ってしまったらしい。

「すいません!!」

「あれ、千鶴ちゃん…」

沖田さんが何かに気付いたようだった。もしかして、と期待が胸を駆け巡る。

気付いてもらえるかな。ちょっとは可愛いって思ってもらえるかな。

「寝癖付いたままだけど…昼寝でもしてた?」

「え、うそっ!?」

髪に手をやるとどこも跳ねていない。

だ、騙された…!!

そう思って沖田さんを見るともう既に先に歩いてしまっていた。

「僕を待たせたば―つ」

沖田さんは何時だって余裕で何だかすごくすごく悔しい。

女の子の格好は出来ないけど、可愛いって思ってもらいたくてこっそり馴染みの赤い結紐から薄い桃色の結紐に変えてみた。他にも小さいことを沢山、沖田さんに可愛いって思ってもらいたくて、私のことを好きになってもらいたくてちょっとずつちょっとずつ変えてきた。でも沖田さんは一向に気付いてくれなくて。

あんなに殺すだなんて言われてきたのに、どうして私はこんなに沖田さんが好きなんだろう。振り向いてもらいたくてこんなに一生懸命になってるんだろう。

「ほら行くよ千鶴ちゃん…おいで」

沖田さんの柔らかい声が聞こえる。俯いていた視線をあげると沖田さんは優しく笑っていた。

嗚呼、敵わないなあ…。

「はいっ!!」

返事をして沖田さんの傍に駆け寄る。

二人並んで歩くそれがどうしようもなく嬉しくて恥ずかしくてでも幸せで。

「何笑ってるの」

「な、何でもありませんっ」

今はまだ追い付けないかもしれないけど、これからはもっともっと努力して、いつか、いつか絶対に…。

「(だから沖田さん、覚悟しておいてくださいね!!)」

心の中で小さく気合いを入れる。まだまだ私の恋は始まったばかりだ。













(そんな千鶴を見つめる瞳があるのを千鶴はまだ知らない)











090502/有海

10000hit企画より特命鬼謀様。特命鬼謀様のみお持ち帰り、返品可能です。

メルトみたいな一生懸命な恋とありましたがうまく表現出来ているか心配です…!!もし何か御座いましたらお気軽に声をお掛け下さいませ!!

それでは遅くなって申し訳ありませんでした…!!企画への御参加本当に有難う御座いましたっ!!
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