(大学生パロ。一月←オリキャラ)



「不知火さんってわたしのこときらいですよね」

場所は大学内のカフェテリア。ざわざわと騒がしい店内で二人のいる場所だけがいやに静かだった。
「なんだってそんなこと」
「だってあなたのその目がわたしのこと憎い憎いって言ってます。あはは、気付いてなかったんですか」
目の前の机には紅茶が注がれたカップが二つ。片方は月子のものだ。その月子は今席を外している。
本当はこの場に居るのは月子とその親友を自称するこの女――代菅鈴の筈であった。其処に何故不知火が居るかというと、大学帰りに月子と何処か出掛けようという話になっていたからである。簡単な話月子を迎えに来たのだ。其れに嫌な予感もした。電話越しに聞こえた月子の声は楽しそうなそれであったけれど、不知火は生理的にこの女が受け付けられない。何が嫌なのではなく生理的に嫌なのだ。もしかしたら同族嫌悪というやつなのかもしれない。鈴の月子を見るその目がまだ月子と結ばれる前の、月子に恋焦がれて仕方がないという自分が持っていた目にとてもよく似ていたから、まるで過去の自分を見ているような気さえしたのかもしれない。
「そういうお前だって俺のこと嫌いだろ」
「別に嫌いじゃないですよ?興味がないだけです」
カラリカラリ、鈴がストローを弄ぶ度に氷がそうやって鳴く。
鈴と月子がどうやって知り合ったのかその経緯を不知火は知らないが、一度だけ本当に嬉しそうに月子が報告してきたことがあった。大学でとても気の合う子を見つけたのだと。その子はとても優しくて良い子なのだと。その頃は鈴のことを全く知らなかったものだから、月子のその出逢いを純粋に喜べた。それなのに今はどうだ。どうして月子がこんな人間と付き合っているのかいまいち理解できない。逢えば嫌みしか出てこない様な女のどこが。
「わたし、女の子の前だとすっごく性格いいですよ?それが好きな子の前なら尚更。当たり前じゃあないですか」
不知火の考えを読みとったのか、鈴は猫の様に目を細めて不知火を見た。いっそ清々しいほどの爽やかな顔だ。
「月ちゃんって可愛いですよね。ほんっとうに可愛い。優しくて気配りも出来て…あなたにはもったいないくらいです」
「まあそこは否定しない。だが一言言わせてもらう。あいつは俺のだ」
「嫌だ嫌だ。男の人ってすぐに所有物化したがる。月ちゃんはあなたのものじゃない。月ちゃんは月ちゃんだけのものです」
「そりゃまた正論を述べてくるんだな、お前」
「まあ、そうでもしないとあなたに勝てる要素が見つからないですから」
「は?」
「人望もあって頭もよくて運動神経抜群な上に、スタイルもよくて顔立ちも整ってて。おまけに彼女に誰よりも優しいときたら、わたしの勝てる要素なんてね、正論を述べて嫌みを言って、其れくらいしか見当たりませんよう」
あはは、人を小馬鹿にした様な笑みを付け足しながら鈴は立ち上がる。その瞳の奥に絶対的な寂しさを不知火は見つけた。だからといってどうする事も出来ない。月子だけは死んでも手放せないのだ、彼女には諦めてもらうより他ない。もともと手放す気など更々なかったけれど。
「帰るのか?」
「ええ、まあ。月ちゃんも帰ってきたことですし、これ以上私が居ても邪魔なだけかなあと。ま、楽しんできてください」
遠くを、こちらに向かって歩いてくる月子を見ながら、鈴は手にとった領収書をひらひらと揺らしつつカフェテリアから立ち去ろうとする。が、最後に何か思い出したように振り返り、真意の読めない顔で笑ってこう告げた。
「月ちゃんを泣かせる様なことがあったら速攻で奪いに行くのでそのつもりで」







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