目を覚ますと形だけは完全に修復されていた左手は黒光りする重々しい鎖に繋がれていた。どうやら言うことを聞かない扱い辛い私は牢に閉じ込められたらしい。
僅かに射し込む光は頭上に設置された窓からのもの。格子など何も付いていない窓からの。
『千鶴』
優しい彼の声がする。とても近い傍で。
『千鶴、お前は、』



行かなくちゃ。あの人が待っているから。



鎖に繋がれている左腕を自らへし折る。本当に形ばかりの修繕だったようで、左腕はボキリと嫌な音を立てて地面に落ちた。
その腕であったものを振り上げて窓を叩き割る。砕け散る硝子が陽の光を浴びてキラキラと輝いた。
行かなくちゃ。
片腕だけでなんとか窓まで這い上がる。頬を撫でる風が心地良い。
『お前は俺の――…』
行かなくちゃ、今から行くから。
だからもう少しだけ、其処で待っていて下さいね。







「どういうことです!?」
男は牢を覗き込みながら激昂する。在るはずのものがない。完璧に完成されたあの兵器用の人形が。
王は気紛れだ。今まで何とかなっていたが、あれがなければ今度は自分が殺されてしまう。
「……っ!!何としてでも見つけるのです!!どんな手段を使っても構いません!!私の前にあの人形を引っ張ってきなさい!!」
男の頭にあるのは自らの保身のみだった。
「いいですか、どんな手段を使っても、です。最悪両手足をへし折ってでも構いません…!!」
男の叫び声に配下の人間が慌てて牢から出て行く。男の後ろ、もぬけの殻となった牢の中で、無惨にも砕け散った腕が硝子の破片と共にキラキラと輝いていた。






090428/有海
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -