バタンと音を立てて扉が閉まる。逃げ出そうにも扉の前には沖田さんが立っている為逃げ出せない。
「何処に行こうとしてたの?」
「えっと、あの…」
射抜くような視線に体が竦む。いつも飄々として笑顔を浮かべている彼しか見たことがなかったから、少し怖い。
「もう一度聞くよ…何処に行こうとしてたの?」
隠し通しておきたかった。誰かに迷惑をかけるわけにはいかないから。でも沖田さんの瞳はそれを許してはくれない。
「……土方さんのところです」
言い終わらないうちに沖田さんの暖かい手が強く強く腕を握ってきた。驚いて沖田さんの顔を凝視してしまう。沖田さんの顔は苦しそうに歪んでいて、私はどうすればいいのか分からなくなった。
腕がキシリと鳴く。
「あの、沖田さん…?」
「千鶴ちゃん、自分が何いってるか分かってる…?」
「え、」
怒っているようにも泣き出しそうにもとれるその表情に何が何だか分からなくなる。
「ねぇ千鶴ちゃん、僕は君が心配なんだ」
「心配って…」
「何時まで見ない振りをしているの」
「どういうことですか」
知らない知らない知らない。何も知らない。何も分からない。何も見て、いない。
「土方さんがいなくってから千鶴ちゃん、君はずっと見えない振りをしてるよね。それでも君がいいなら僕はこのままでも良かった。……でも君は自分の変な思い込みで自分の命すら危うくしてる。僕はそれを見過ごせないんだ」
きっと睨みつけた沖田の顔は先程の顔より何倍も柔らかくなっていた。私はその表情を知っていた。
土方さんはよく今の沖田さんのような表情で私を見る。その瞳は確かに私を見ているのに、瞳には私の姿は映っていない。あるのは『私に似た誰か』だ。
ねぇ土方さんも沖田さんも私に誰を見ているの。
「土方さんは居なくなっていません」
「……千鶴ちゃん、」
彼は居なくなってなどいない。そう必死に自分に言い聞かせる。
彼は軍の人間に連れて行かれたのだ。暗い暗い部屋の中で一人虐げられているのだ。だから早く一刻も早く迎えに行かなければ。私が壊れてしまう前に。
「軍に連れて行かれたんです。だから私が迎えに…!!」
「…千鶴ちゃん!!」
突然吐き出された大きな声に体がビクリと震えた。沖田さんの顔から先程の柔らかい表情は消え去っていた。
「千鶴ちゃん!!いい加減にしなよ!?何時まで見ない振りをしてるの?!」
「み、見ない振りって、」
言わないでお願いだから。知りたくないの思い出したくないの傷付きたくないの泣きたくないのもう苦しみたくないの。
それでも沖田さんは言葉を紡ぐ。逃げ出したいのに体が動かない。嫌だ嫌だ嫌だ止めて止めて止めて…!!
「土方さんは居ないんだよ!!土方さんは……!!」




バタンと大きな音を立てて沖田さんの後ろの扉が開く。カチャリと引き金を引く音がした。




「やっと見付けました。探しましたよ最高の人形師の最高傑作さん……土方さんなら死にました。私が殺しましたから…あなたの目の前で、ね?」




嗚呼だから思い出したくなかったのに。






060406/有海
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