土方さんに会わなくなってから一ヶ月と少しが経った。流石に心配になってしまう。何かあったのではないかと。でも私はあまり外に出るなと言われているから、簡単に人に尋ねることも出来ない。そうして悩んでいるとまた一週間が経った。まだ土方さんには会えていない。
「ちょっとくらいなら、いいよね…?」
実は今までにもこっそり外に出たことは何度かあるのだ。流石に村の外には出たことはないが。
土方さんとの約束を破るのは心苦しいけれど、全ては土方さんの為だ。そう自分を納得させて、私は久しぶりに家の外へ出た。






空気が澄んでいて暖かい。家の周りには色とりどりの花が咲いている。もう春であったことを今更ながらに思い出した。この暖かい中を土方さんと散歩出来たらどんなにいいだろう。どんなに幸せだろう。
そんなことを考えながら村の中を歩いていると、村人らしき人間に出会った。二人組で立ち話をしているのだろうか。全くこちらに気付くこともない。もう少しばかり歩みを進めると会話の内容が耳に入ってきた。
「王様はまた戦争をおっぱじめる気らしいぜ」
「いい加減にしてくれよな…!!王様は俺たちを何だと思ってんだ!?王族こそ本当の悪魔だ…!!」
戦争。その単語が私はとても嫌いだった。人を傷付けて何が楽しい。人を殺して何が楽しい。私は傷付く人など見たくない。
会話は続いた。
「……でもよ。戦争を始めるつったって兵士がいねぇだろ。この間の戦争で大分…」
「これは隣村の奴に聞いたんだけどよ」
急に声のトーンが下がる。これ以上立ち聞きするのも不味いと思って立ち去ろうとした時、思いも寄らない言葉が耳に飛び込んできた。
「生きてるみたいに動く人形を作る計画があるらしい。人形だから死にゃしないし、怪我をしたら直しゃいいってな」
「あぁ…だから土方さんとこにあんなに軍の人間が来てたのか」
「土方さんは拒んでたみたいだけど…って、なぁ、最近土方さんの姿見ねえよな…?」
「……まさか、」


……止めて止めて止めて止めてお願いだからその先だけは言わないで……!!


走ってその場から逃げ出す。地面に転がる石が大きな音を立てた。
その大きな音で気が付いたのか二人の男が私の方を見た。目は大きく見開かれ驚愕の表情をその顔に浮かべている。何でそんな目で私を見るの。何でそんな、化け物でも見たような目で!!
「ち、千鶴さん…!?」
「嘘だろ?!え、何で…!?」
ただただその言葉たちから逃げ出したくて私は必死に走る。そうして走っている間に一つ思い出した。
そうだ土方さんは軍の人間に連れて行かれたのだだから今まで家に帰ってこなかったのだだったら助けに行かなくては迎えに行かなくては土方さんを助けに助けに迎えに迎えに迎えに迎えに…!!
足がびき、と嫌な音を立てた。それでも構わずに走り続ける。また一際大きく足がびき、と鳴いた。
と。
「千鶴ちゃん…!?」
温かい何かに腕を掴まれ無理矢理足を止められる。息を乱しながら振り返ると驚くほど真剣な顔をした沖田さんが立っていた。そんな顔見たことがない。
「お、沖田さ…」
「千鶴ちゃん、何処に行こうとしてたの」
「え…わ、私は…」
「……ちょっとこっちに来てくれるかな」
強引に腕を引っ張られる。進みたい方向とは逆の、どうやら沖田さんの家に向かっているようだ。
早く土方さんのところに行かなくては。そう心は確かに思っていて、だったらこの手を振り払って逃げ出せばいいのに、何故だか私にはそれが出来なかった。



また、びき、と足が嫌な声で鳴いた。




090404/有海
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