私が土方さんと過ごし始めてから二年と少しが経つ。
最初のうちは分からないことが多く失敗ばかりしていたのに、土方さんはいつも優しく笑って許してくれた。でもその笑顔の中にいつも深い悲しみが沈んでいることに気付いたけれど、私にはどうすることも出来なかった。ねぇ土方さん、私の中に一体誰を見ていますか?




「よし、出来た!!」
テーブルの上に並べられた料理は、自分の目から見ても十分に美味しそうだ。失敗ばかりでどう頑張っても人間の食べ物に見えなかったあの頃とは雲泥の差である。
それでも土方さんは全て残さず食べてくれたのだけれど。
「土方さん、まだかな…」
この一ヶ月、土方さんの帰りがとても遅い。いつも私が睡魔に負けて寝てしまった頃に帰ってきて、私が目を醒ます前に家を出て行ってしまう。一言声を掛けてくれればいいのに彼は変なところで気を遣うのだ。
今夜こそ起きていようと毎回思うのだけれど、いつもいつも寝てしまう自分がほとほと情けない。近くに住む沖田さんという男性にどうすればいいか相談してみたことがあるが、その時は笑って「しょうがないんじゃない?眠いときは寝ちゃうに限るよ」と言われてしまった。
「ふわぁ…」
思わず出てきた欠伸を慌てて噛み殺す。今日こそは起きていなければならない。
襲い来る眠気を消すために土方さんに教えてもらった唄を口ずさむ。世界で一番の愛の唄。優しい優しい愛の唄。人形が歌う愛の唄。
『彼に褒められるように今も歌ってる
彼が瞳を覚まさなくたって歌っていよう
ただ永遠に歌い続けていよう……』







静かに家の扉が開き男性が一人入ってくる。
男性は机に突っ伏して眠っている千鶴を見て小さく笑みをもらした。そして千鶴の真向かいに座るとゆっくりと料理に手を付け始める。優しげに細められた瞳は千鶴に固定したまま。



緩やかに時間は流れ男性は料理を食べ終えるとそっと立ち上がる。家を出て行く前に頭を数回撫でて小さく小さく愛おし気に呟いた。
「おやすみ、『千鶴ちゃん』……よい夢を」






090403/有海
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