お題:追伸、この手紙は燃やしてください。



歳三さんがこの空の遠くへと少し長めの旅行に出掛けてから暫くが経ちました。
旅立つ前に歳三さんに言われた通りに、私はきちんと笑えているでしょうか。歳三さんが一等好きだとあの温かく優しい声で告げてくれた、その笑顔で笑えているでしょうか。

桜も随分と大きくなりました。誰よりも優しくて気立てのよい、村でも評判になるくらいなんですよ?優しいというところは歳三さんにとてもよく似ていますね。なんて言ったら怒られてしまいますね。歳三さんは照れ屋ですから。
ああ、もう一つ御報告しなければならないことがありました。桜はこの度結婚することになったんです。桜を溺愛していてくださっていた歳三さんのことですから、きっとお怒りになると思って今まで御報告出来ませんでした。御免なさい。でも本当にお怒りになるでしょう?だって「桜は俺以上の奴じゃねぇと嫁にはやらん」って常々仰有っていましたものね。私はしっかりと覚えていますよ。
ですが歳三さんが心配することは何一つありません。流石に鬼の新選組副長と謳われた歳三さんには敵いませんが、しっかりとした責任感の強い優しい人です。きっと必ずや桜を幸せにしてくれることと私は確信しています。


新選組と言えば先日久しぶりに皆さんの夢を見ました。近藤さんがあの優しい顔で笑っていて、沖田さんは相変わらず意地悪。斎藤さんは物静かで平助くんと永倉さんは明るく元気。原田さんも相変わらずとてもお優しく、あんなに目覚めたくないと思った夢は久しぶりでした。
でも不思議ですね。幸せな夢だった筈なのにちっとも幸せにはならなかったんです。何故だか分かりますか?――歳三さん、あなたが出て来て下さらなかったからですよ。意地悪ですね。私はこんなにも逢いたいと思っているのに、歳三さんは違うんですか?
それとも約束した桜の木の下で私を待っていて下さるから、逢いに来て下さらなかったんですか?
だとしたら私は――…。






初めにも書きましたが桜ももう十分大きくなりました。私が居なくても十分な程に。でも私にはやっぱり歳三さん、あなたが必要なみたいです。あなたがいない世界は全てが虚ろで、それはもう味気ないものですから。
もうすぐ私はあなたの元へ参ります。そうしたらあの笑顔で抱き締めて、いつものように「千鶴」って私の名前を呼んで下さい。それだけで私は絶対に幸せですから。




今日は随分と長い御手紙となってしまいました。そろそろこの辺で筆を置きたいと思います。きっとこの御手紙が歳三さんへ送る最後の御手紙になるでしょう。
次は私の口から直接お話しますから、覚悟していてくださいね。



拝啓、最愛の旦那様、土方歳三様

土方千鶴



追伸、もし桜や私以外の誰かがこの手紙を見つけたら、この手紙は燃やして下さい。空の彼方に居るあの人へ届くように。





〜090325/有海
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