桜の木の下、最愛の人と永遠の約束を一つ。



「今日は」
雪のような白い長髪を風に靡かせ女は笑う。その儚げなそれでいて優しい笑みに男も釣られて笑った。その笑顔は少し泣きそうなそれに近かったけれど。
「今日は。君は何をしてるのかな」
「わ、私ですか?」
女は自分の行為を尋ねられるとは思ってもみなかったのか、目に見えて動揺してみせた。その動作がおかしかったのか男は猫のように喉を震わせて笑う。
「わっ笑わないでください!!」
「あはは!!ごめんごめん、」
「もう…」
それはまるで遠いあの日のよう。ありふれた幸せは思えばこんな色だった。
「私は、」
取り直したように女は告げる。一陣風が吹いた。
「大切で大好きな人が幸せであるように、とお祈りをしているんです」
「……」
「その方が一体誰なのか分からないんですが、でも、」
私は確かにその方がこの世で一番、愛おしいんです。
空を見上げる女は気付かない。男の頬に一筋透明な雫が伝っていったのを。
「僕の、僕の大切な人はさ」
男は呟く。震える声に気付いたのか、女は空を見上げたまま。
「僕に幸せになってもらいたいなんて言ってさ、僕を置いて遠くに行ったんだ。僕には君さえいればそれだけで十分幸せだったのに」
いつかこの痛みを忘れて笑える日は来るのだろうか。でもこの痛みは確かに君が此処に居たという証なのだから、嗚呼それならばこの先永遠に消えなくたって構わないのかもしれない。
「それでも」
空を見上げたまま、女は言う。その空に誰を見ている?
「それでも貴方は笑っていてくれるんでしょう」
あの日と似たような言葉を口にして女は微笑む。その瞳はどこまでも優しい。そう、それはまるで。
「ねえ、君はこれから何処へ行くの」
例えば明日、この世が滅ぶとして。その時己の隣に居るのは誰だろう。家族か友人かそれとも、それとも。
「…とお―くに」
「…其処はどんな、」
「そうですね…」
この世界はいつだって冷たくて、未熟な人間にとって優しくないばかりの世界だ。それでも嫌なことばかりじゃない。冷たいからこそ、木漏れ日のような暖かさを知ることが出来た。優しくないからこそ、陽射しのような優しさを見つけられた。楽しい幸せな思い出ばかりじゃない。でもそれでも。
「みんなが笑っている、そんな場所です。きっと貴方の大切な人も笑っていてくれていますよ」
でもそれでも、その中で優しくて幸せな思い出も確かに存在していた。その事実だけできっとこれからも生きていける。
「そっ…か」
「はい」
傷付いた記憶も苦しんだ記憶も全部抱き締めて生きていこう。愛しい思い出だけ忘れないようにして。
「もし、僕が生まれ変われるなら、その時は、」
桜の木の下。男は願う。それは余りにも儚くて脆くて、何よりも強いもの。
「必ず僕が君を迎えに行くよ。今度もまた絶対に君を好きになる。だからそれまで、どうか、」
桜の木の下。女は願う。それは弱くて切なくて、何よりも暖かいもの。
「それまで待ってて。浮気、しちゃ駄目だよ」
桜の木の下。一人の男女が願う。それは優しい永遠。
「……そう伝えて貰えるかな。あの子に逢ったら」
あの子、が誰であるかなんてもう関係なかった。
永遠なんてないかもしれない。でも貴方となら、そんなものも信じていけるような気がした。
「……はい。約束ですよ」
「うん。……約束、だからね」




桜の木の下。また出逢えることを信じて。




090206/有海
ここまでお付き合い戴き有難う御座いました!!
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