好きでした大好きでした愛していました。嘘、きっとずっとあいしてる。


ゆっくり振り返った彼を一瞬眩い光が包む。それは本当に一瞬の出来事で、怪訝そうに彼は眉を寄せた。
「何、今の」
彼の言葉に答えぬまま私は小さく笑う。
直に私は彼を忘れるんだろう。臆病な私。嘲笑って欲しいよ。
「沖田さん」
最初から貴方を好きにならなきゃ良かったのかもしれない。そうすればこんなに苦しまなくてすんだのに。
でも。
泣きたくなる程の愛しさと寂しい程の幸せと狂おしいくらいの切なさを教えてくれたのは全部全部貴方だった。貴方と出逢わなければ知らずにいた。出逢いたくなかったわけじゃない。だって今までずっとずっと幸せだった。
「此処まで付いてきて下さって有難う御座います。私はもう、一人でも大丈夫ですから」
「何、それ。どういう意味」
この空に祈るよ。ときわの幸せを。
「……どうして女鬼の数が少ないか知っていますか」
「話そらさないでくれる」
私が貴方に出来る最初で最後。こんな我が儘だったら貴方は聞いてくれる?
「女鬼には男鬼にはない力を持ち、それ故に数が少ないのです。私の姉もその力を用いた結果、亡くなりました」
「ちづ、」
「沖田さんは幸せになるべきなんです。だからそのために悪いものは全部ぜーんぶ私が持っていきますから」
思い出すのは優しい貴方の笑顔ばかり。
「沖田さんの中の羅刹も、沖田さんに巣くった労咳も全部ぜーんぶ私が持っていきますから。だから沖田さんはどうか大切な人と幸せになってください、ね」
女鬼だけが有する力。それは自分にとって一等大切な人の悪いものを自分の身に引き受ける、というものだ。私の姉も己の大切な人の病を引き受けて亡くなった。別に恋仲であったわけじゃない。ただ、大切な人には幸せになってもらいたいというのは普遍的な事実であろう。
「意味、分からないよ」
「……沖田さ、」
「僕の幸せは僕が決める。君にどうこう言われるものじゃない」
「……沖田さん。今まで本当に有難う御座いました。後生ですからどうか好いた人と幸せになってください」
「好いた人って誰」
「沖田さんの馴染みの刀鍛冶の娘さん、でしょう?知っていますよ」
「……沙夜は関係ないでしょ」
嗚呼出来ることならば、その名を聴きたくはなかったなあ。
「僕には君が居ればいいんだ、ねえ千鶴」
それはまるで夢のような日々の名残。その優しい夢の中で永遠に眠っていられたら良かったのに。
「さよならです、沖田さん」
彼の瞳が段々濁り始める。次彼が目覚めた時、彼の居る世界が幸せに包まれていますように。
「嫌だ、こんなの認めない。千鶴、君はいなくなるつもりなの、僕を置いて」
「………それでも貴方はこの世界で笑っていてくれるんでしょう」
「意味、分からないよ。千鶴、嫌だ、もう何も、失いたく、ないん、だ、千鶴!!」
彼の体がゆっくり倒れ込む。それを受け止めて私は目を瞑った。
自分勝手で我が儘な人間でごめんなさい。貴方に迷惑を掛けてばかりでごめんなさい。嗚呼、それでも貴方が幸せでいてくれるならば。

この命、無駄じゃないとそう思えるのだ。




「沖田さん、」



じゃあね、おやすみ。





090204/有海
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