沖田さんの悲痛な声を聞きながら私は目を瞑った。そうでもしないと涙が溢れてきてしまいそうだったから。
近藤さんが処刑された、のだという。優しく人一倍思いやりがあって誰よりも気高かった人。そんな人がどうして。
脳裏に思い浮かぶのは近藤さんの優しい笑顔ばかりで、堪えきれずに頬を一筋、透明な雫が伝った。

近藤さん、私たちも後から行きますから。だからそれまではどうかどうか、ゆっくり体を休めていて下さいね。

祈るように希うように、思った。








「さあ千鶴ちゃん、行こうか」
彼は私を見ないまま進んでいく。彼の背中がとても寂しそうに見えるのは気のせいじゃない。
このまま、私が何も言わなかったら。
彼はきっと何も言わずに私の傍に居てくれるんだろう。でもそれは彼が確かに望んだことじゃない。
幸せになって欲しい。もう泣かなくていいように。笑っていて欲しい。もう苦しまなくていいように。誰より何より大切な人の傍で、その生が底を尽きてしまうまで。
だから私は、


もう彼が傷つかないように嘘をつこう。

『有難う』も『ごめんなさい』も『さようなら』も―――『愛してる』も言わないまま。
ねえ母様、やっと姉様の気持ちが分かりました。あの時の姉様もきっとこんな気持ちだったのでしょうね。






『ねえ母様、どうして姉様は死んじゃったの?』
『千鶴、』
『どうして?ねえ、母様!!』
『…………千鶴、誰にも言っちゃいけませんよ』
『……?』
『私たち女鬼にはたった一つ、仏様より授かった特別な力があるのです』
『特別?』
『――ええ、それは………』





「沖田さん」

さよなら、この世で一番愛おしい人。




090203/有海
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