「……千鶴ちゃんってさ、絵に描いたような『良い子』だよね」
千鶴ちゃんを休ませた後、部屋には僕と山崎くんの二人だけ。僕の独り言に律儀にも彼は応えてくれた。
「そうですね。雪村くんのような人間が何故、沖田さんのような性悪を構うのか理解に苦しみます」
「あはは、山崎くん、殺して良い?」
でも一理ある。あの子みたいに優しい子がどうして僕なんかに構うのか。死に行くこの身を案じてくれるのか。
ごめんなさい、とあの子は胸を抉るような悲痛な声で叫んだ。僕が起きていないと思っていたのだろう。涙まで流して、僕がどうして君を庇ったのか知らないまま。
「雪村くんのような人間は幸せになるべきだ、と思います」
「何其れ。どういう意味」
「沖田さんは労咳のこと、まだ雪村くんに仰有ってないんでしょう」
「……だったら?」
この身を蝕む罪をあの子は消えたのだと思っている。そう思わせるためにあの子の前では極力咳をしないように努力してきたし、その努力のお陰か病の進行も今の所止まっている。全てはあの子の笑顔を曇らせないため。あの子の笑顔を曇るのは許せない。たとえその原因が自分であっても。
「いつか沖田さん。貴方が消えたとき誰よりも悲しみ、自分を責めるのは他でもない彼女ですよ」
悔しいがその通りだ。僕はいつかあの子を置いていく。一緒には連れていけないから。
「だから千鶴ちゃんを手離せって?」
小さく目を瞑る。描くのは優しい笑顔。
「……無理だよ。僕は一度手に入れたものを手離せるほど、お人好しじゃない」
「手に入れたわけじゃ、ないでしょう」
「山崎くん、揚げ足取らないでくれるかな」
いつか訪れる別れの日まで傍に居させて欲しい。僕の最後の我が儘をどうか許して。





「雪村くんは聡い人です」
山崎の独り言を聞く人間はいない。それでも山崎は続ける。
「隠し通せていると思っているのは、貴方だけかもしれませんよ。沖田さん」




090203/有海
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