眉を寄せ額に汗を浮かべながら苦痛に耐えている彼の手をそっと握る。嗚呼、代わることが出来るのならば全てを私が引き受けるのに。
ぽたり、と瞳から零れ落ちた透明な雫が真白い布団に染みを作る。私のせいだ。私なんかを庇わなければ彼はこんな傷を負うことも、こんなに苦しむこともなかったのに。
羅刹であるから大丈夫なのではないか、と思わなかったと言えば嘘になる。ただ、傷は直ぐ癒えるだろうということに安堵したのは事実だ。
それなのにどうして彼はこんなに苦しんでいる?
羅刹の力で直ぐに傷は癒えるだろうと思っていたのに。銀の弾?そんなこと聞いたことがない。
「ごめんなさい…」
私がもっと強くあれば。私がもっとしっかりしていれば。彼は傷付かなくて済んだのかもしれない。
何が鬼だ。どうして人の何倍もの治癒力を持っている。大切な人をその身を持って守るためでないのか。私ときたら守るどころか守られてばかりで。吐き気がする。守られてばかりの自分も、その身を持って大切な人を守る勇気がない自分も。
「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
彼は優しいから、こんな台詞を聞いたら『君のせいじゃないよ』って言うんだろう。呆れたように笑いながら。
だから涙を流すのは今だけ。こんな言葉を口にするのは今だけ。彼が目覚めたらちゃんと笑おう。笑って『有難う御座います』と言おう。
だから、今だけは。
「ごめんなさい、沖田さん…!!本当にごめんなさい…っ!!」

握った手に僅かに力が込められた、そんな気がした。




090203/有海
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