最近の僕は少しおかしい。
気付けばあの子を目で追っている。気付けばあの子を探している。
最初は殺してしまうつもりだったのに、この様は何だ。あの子の姿が見えないだけでこんなに落ち着かないだなんて。
「(千鶴ちゃん、何処行って…)」
辺りを見回してもあの子らしき人影は見当たらない。まさか一人で外に出たというわけではないだろう。
「(………って)」
本当に僕らしくない。新選組ひいては近藤さん以外の事で脳内を支配されてしまうだなんて。
………だけど、
そんなに嫌じゃないのは何故だろう。
ふ、と短く息を吐いて縁側に座る。ぼうっと見上げた空は綺麗な橙色に染まっていた。
優しい色、だと思う。まるであの子みたいだ。
あの子が傍にいる。たったそれだけの事実で世界はこんなにも色を変えるのだろうか。今までただ冷たいばかりだった世界がこんなにも温かさを帯びるのだろうか。
この先ずっと冷たい世界で生きていくのだと思っていた。それでいいと思っていた。でも、温かさを僕は知ってしまった。木漏れ日のように優しく日溜まりのように温かい、そんな世界に一瞬でも足を踏み入れてしまった。僕はもう、冷たいばかりの世界にはきっと戻れない。
僕は何れこの身に宿る罪によって死ぬのだろう。其れを罰なのだと甘んじて受け入れよう。
ただ、情けというものがあるなら。
仏の慈悲というものが存在するなら。
僕がこの世から消えるとき、この身があの優しい世界にあるといい。
傍にいるのがあの子であったらいい。
090203/有海