組長のあんな顔始めてみたよ、と一人の隊士は言う。
「組長もあんな顔で笑うんだって初めて知った、なあ」




沖田さんが好意を抱いているという、その人は沖田さんの馴染みの刀鍛冶の一人娘らしい。平助くんの巡察に付いていった際、こっそり盗み見た彼女は私なんかよりとてもとても綺麗で、とてもとても優しくて、私なんかとてもとても足元にも及ばないような人。
「?どうしたの千鶴ちゃん。元気、ないみたいだけど」
「いえ、……大丈夫です。お気遣い有難うございます」
笑う沖田さんの顔を見て思う。
彼が私だけを見てくれたらいいのに。
私を守らなければならない、という命に縛られてしまえばいいのに。
病が、


「………っ」
嫌い大嫌い。こんなこと考えてしまう自分が大嫌い。こんな醜い感情なんか今すぐ消えてしまえばいいのに。
私はただの居候で、この場に置いてもらえるだけでも十分なのに。それなのにそれ以上を望むだなんて、何て浅ましい。
それに私は、『鬼』、だ。だから尚更、私は彼のそばに居てはいけない。頭ではきちんと理解している。でもどうして、

狂おしいくらい彼の存在を求めてしまうんだろう。




縁側に腰掛けて空を見上げる彼にそっと近付く。その空の彼方に一体誰を見ているのだろう。
「沖田さん、」
「ん?」
「お体に障りますからお部屋に戻ってください」
「大丈夫だよ、これくらい」
「沖田さんはそう言っていつも無理をなさるんですから、」
これ以上病が悪化してしまったら、あの人にも逢えなくなってしまいますよ。
こっそり心の中で付け足す。彼は呆れたように溜め息を一つついて立ち上がった。
「分かったよ。千鶴ちゃんといい土方さんといい、本当に過保護だよね。ただの風邪なのに」
私は彼のその嘘に曖昧に笑うことしか出来ない。

出来ることならば痛みも苦しみも全て私が代わってあげられればいいのに。



090202/有海
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