屋上へと続く階段を登りきる。錆び付いた音がして扉が開いた。
桜舞う青空下、長い髪が揺れる。僕は彼女の名を呼ぶ。
「話って何……沙夜」
其れは愛おしい彼女のものではなく幼馴染みのものだった。
彼女が僕に好意を抱いているのは昔から感づいてはいた。でも僕の全てはあの子の物だから彼女には何もあげられない。
例え遠い昔、一時的であろうと僕の心を支配していた人間であったとしても、だ。
「総司」
彼女が僕を呼ぶ。その呼び方にさえあの子を重ねてしまう、そんな愚かな僕。頭の片隅で、あの子が僕の名を呼んでくれたらどんなにいいだろうと思った。
「…私昔からずっと貴方のことが好きだったのよ」
知っている。でも、
「…ごめん」
今も昔も愛しているのはあの子だけなのだ。僕の中にあの子以外が入る隙間など、ない。
「あの頃は傍に居てくれたのに?」
「……君、覚えて…?」
彼女は泣きそうな顔で笑う。それはあの頃見た彼女のものと同じ。僕が別れを告げた時のものと全く、
「覚えていた、というよりは思い出したというほうが正しいのかな」
「……」
「嬉しかった、けど駄目ね。今もあの頃も貴方の心はあの子のものなのね」
あの頃、確かに僕は彼女の事が好きだった。綺麗な笑顔が好ましいと思っていたし、その優しさが素敵だと思っていた。
――――あの子に出逢う前までは。

「生まれ変わったなら少しくらい私の方を見てくれると思ったけど…」
時を経ても変わらないものもあるのね
彼女はそう言って笑う。僕は何も言わない。
「世界が大切な人の敵になったら、」
世界が千鶴ちゃんの敵になったら。
僕だけはあの子の傍にいてあげよう。どんなに傷つこうと構わない。あの子の傍に居ることが僕の絶対的な幸福の条件なのだ。だからあの子の為ならば世界を敵に回すくらいどうってことない。あの子が望むならば世界を壊したって構わない。
「千鶴ちゃん、その人の一番の敵になるんだって。誰よりも大切な人を想う存在で在るために」
敵わないよね、と彼女が苦笑する。嗚呼君って子は本当に、
「……馬鹿だね、千鶴ちゃん」
「そうね。でも…素敵だと思うよ」
桜舞う下、今君は何をしているのかな。逢いたいよ、どうしようもなく。抱き締めたいよ、狂おしいくらい。
「千鶴ちゃん、きっと待ってるわ。だって彼女、いつだって貴方の事が好きなんだから…今も昔も。約束のこともきっと、」
その言葉に気付く。あの子は、もしかして、
「…今度は幸せにしてあげてね、絶対よ」
「当たり前、」
待たせてごめんね。今から約束を果たしにいくよ。
君が居る場所は分かっている。早咲きの桜の下だ。





090131/有海
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