千鶴ちゃんと二人きりで下校するなどいつ以来だろう。随分と久しぶりの様な気がする。
僕は何も言わない。彼女も何も言わない。

あの頃はいつも僕の三歩後ろを歩いていた彼女。だから今隣に並んで歩けていることが、気恥ずかしくなる程に嬉しい。ねえ、君は気付いてる?
「ねえ、千鶴ちゃん」
ふと思うところがあって声を掛ける。先日家で見た番組の内容が頭をよぎった。
"前世"だなんて君は信じるだろうか。君が確かに僕の隣に存在した前世を君は信じてくれるだろうか。
「千鶴ちゃんは"前世"って、信じる?」
彼女の表情を見るのが少し怖くって、僕は前を向いたまま話す。もし表情に嫌悪や呆れといった類のものが浮かんでいたら僕はきっと立ち直れない。
あの頃を覚えていなくたって千鶴ちゃんは千鶴ちゃんで、だから僕は彼女がどうしようもなく好きだ。どうしようもなく愛しいと思う。幸せになって欲しいし、幸せにしてあげるのが僕だったらいい。
それでもあの頃のことを引き合いに出すのは僕の弱さなんだろう。
「前世、ですか?」
「うん」
「そうですね…。信じているか信じていないかは別として、あったら素敵だなって思います」
「…やっぱり千鶴ちゃんも女の子だね」
「でも、」
やっぱり千鶴ちゃんは優しい。
続きを促すように僕は彼女を見た。
「大切な人が笑っていてくれた、そんな前世なら信じていたいと、そう思います」
嗚呼なんて君は。
君がそんなだから僕は君を永遠に手離せない。
そっと小さな頭に手を乗せる。衝動のまま抱き締めることも出来たけれど、そうしたら気持ちまで言ってしまいそうで思い止まる。せめてこの掌から想いが伝わりますように、と願いを込めて。
「そうだね。僕もそんな前世だったら信じてみたいな」
「……沖田、さん?」
泣きたなるほどの愛しさと寂しいほどの幸せを与えてくれたのはいつも君だった。
僕に言い寄ってくる人間を見る度、何度それが君だったらと思ったろう。何度君であって欲しいと願ったろう。
どうしようもなく君を僕のものにしてしまいたくて、でも僕の中の臆病が邪魔をする。君に手を伸ばして触れることすら躊躇ってしまう。穢れた僕のようなのが君みたいに綺麗なものに触れていいのだろうか、と。



それでも止められないのは愛しさ故だと、そう思って欲しい。



090131/有海
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -