打ち合いが一通り終わり一息吐いていたときだった。偶然耳に入ってきた台詞に僕は眉をしかめる。
どうやら悪い虫が、彼女に付いているようだ。
「雪村って可愛いよな」
「気が利くしなー」
嗚呼苛々する。彼女は僕のなのに。
無意識に竹刀を握る手に力が篭もる。今すぐ斬ってしまえたらいい。
「千鶴って呼んでもいいよな、マネージャーだし」
頭の中で何かが切れる音がした。子供じみた独占欲だとは分かっている。分かっていてもそれでも止められない場合はどうすればいいのだろう。
「千鶴って名前、可愛いよな」
今もあの頃もその名前を呼ぶ権利を持つのは僕だけに許された特権だ。他の男になど渡してなんかやらない。
「千鶴ちゃん、とかかな」
沸点が低い自信は昔からあった。
……その名を気安く口にするな!!その名を呼んでいいのは僕だけだ!!
「ねえ、」
満面の笑みを浮かべて近付く。この手にあるものが真剣であったらどんなに良かっただろう。
「僕の相手してくれない?無駄口叩いている暇があるんだから大丈夫でしょ」


神様、居るならどうか、この想いを止める術を教えて下さい。





あの頃交わした約束を君は覚えているだろうか。

偶に君が僕の中に誰かを見ているのではないかと錯覚することがある。其れがもしあの頃の僕であったなら、今直ぐにでも君を抱き締めてあげるのに。
臆病者の僕はこの心地良い距離をどうしても壊す事が出来ない。
そんな理由を付けないと前にも進めない僕をどうか許して。




090129/有海
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