昼休み。仲の良い友達とお弁当を囲んでいた時だった。
「千鶴ちゃん、いるかな」
凛とした優しい声。私はその主を知っている。
「細波先輩?」
扉の端立つ彼女は小さく手招きをして私を呼ぶ。それさえもとても可愛らしくて何だか少し悔しい。
「どうかしたんですか?」
「うん、あのね、ちょっといいかな」
言われるがまま誘われるがまま後ろを付いて行く。辿り着いたのは屋上だった。体に纏わりつく風はまだ冷たい。
「えっと、細波先ぱ…」
「ねえ千鶴ちゃんはさ」
私に背を向けたまま彼女は問い掛ける。広がるのは雲一つ無い青空。早咲きの桜の柔らかな花弁が舞う。まるであの頃のように。
「総司のこと、好きだよね」
突然の台詞に時が止まる。振り向いた彼女は綺麗に笑っていた。
「知ってたよ。昔から」
彼女は続ける。
「今も昔も総司の心に触れることが出来たのは貴女だけだったから」
「え…?」
「千鶴ちゃんは何か勘違いしているみたいだけど」
約束だからね、と彼が笑う。
約束ですよ、と私が応えた。
「ねえ千鶴ちゃんは総司のどこが好き?一度聞いてみたかったんだ」
「………どこが好き、とかじゃなくて」
意地悪そうに笑う顔も優しげに細められるその瞳も全て全て、彼だからこそ愛おしかった。彼を形作る全てを堪らなく愛していた。
そう、今もあの頃も。
「沖田さんが好きです。沖田さんだから、好きです」
敵わないな、と彼女が笑った。
「またこの世に生を受けた時、とても嬉しかった。また総司…総司さんの傍に居られるから。でもやっぱりどんなに時を経ようとも変わらないものも在るんだって知ったよ。貴女が居たから」
どういうことだかよく分からなくて私は首を傾げる。一つだけ分かるのは、彼女もあの頃の記憶を持っているということ。
「ねえ知ってた?総司が頭を撫でるのは千鶴ちゃんだけなんだよ。今もあの頃も。総司、他人に触れたり触れられるの好きじゃないくせにね。私だって撫でられたこと、ないんだよ」
幼馴染みなのにね、と自嘲気味に呟く声は風に流されて消えた。
「千鶴ちゃんはそろそろ幸せになっていいと思う…ううん、ならなきゃ駄目。千鶴ちゃんみたいな優しい子が幸せにならなくて誰が幸せになるっていうの」
あの頃は彼女の事を間接的にしか知らなかった。だから知らなかった。彼女がこんなにも優しく強い人だと言うことを。
「あの日もこんな桜が舞っている日だったなあ」
その台詞に何だか泣きたくなる。同じ空間に同じ記憶を同じ想いを共有している人間が二人。奇蹟のようなそんな偶然。
「意地悪してばっかりのこんな私と仲良くしてくれて有難う、ね」
意地悪だなんて彼女がしたことがあっただろうか。
「これからもこんな私と仲良くしてくれるかな」
「…勿論です。いつだって細波先輩は私の憧れの先輩なんですから」
「………そう言って貰えるなら嬉しいな」











屋上から出て行った千鶴の後ろ姿を見つめながらぽつりと彼女は呟く。桜がふわりと呼応するように舞った。
「今度は永遠にお幸せに。千鶴ちゃん」



090127/有海
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