彼と二人きりで下校するなどいつ以来だろう。随分と久しぶりの様な気がする。
彼は何も言わない。私も何も言わない。
ただ彼が隣に居るだけでこうも違うものなのだろうか。温かくて優しい何かに包まれているような。
「ねえ、千鶴ちゃん」
不意に発せられた声に返事をしそこねてしまう。返事の代わりに彼を見上げると、彼は寂しそうな目をしたまま一点、前だけを見つめていた。
「千鶴ちゃんは"前世"って、信じる?」
彼の口から零れ落ちた言の葉は私を大いに驚かせた。彼の口からそんな言葉が出て来るなど誰が予想しただろう。
そんな事を言われてしまったら私は無意味に期待してしまう。彼が約束を思い出してくれたのではないか、と。
有り得ない、と頭の隅では確かに思っていても。
「前世、ですか?」
「うん」
「そうですね…。信じているか信じていないかは別として、あったら素敵だなって思います」
「…やっぱり千鶴ちゃんも女の子だね」
「でも、」
一端言葉を切る。口の中が乾いてうまく言葉が出てこない。
「大切な人が笑っていてくれた、そんな前世なら信じていたいと、そう思います」
不意に頭の上に重みを感じた。そのまま視線だけを彼に向けると、優しい瞳とかち合う。まるで愛おしいと言われているようで、気恥ずかしくなってしまって顔に熱が集まるのを止められない。
「そうだね。僕もそんな前世だったら信じてみたいな」
「……沖田、さん?」
どうしたのだろう。今日の沖田さんは何だか変だ。いつもならもっともっと私に意地の悪い事を言ってきたり、私をからかって遊ぶのに。
こんな風に切なさそうに愛おしそうに私を見詰める彼なんて、知らない。
その視線の対象はいつだって私ではなかったから、こんなときどうすればいいのか分からないのだ。
そんな瞳を向けられても私はきっと何も返してあげることが出来ない。


全てが全て、自惚れかもしれないということは痛い程分かってはいるけれど。



090126/有海
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