私が彼への想いをはっきりと自覚したのは丁度中学生にあがった頃。
それまで朧気だった気持ちが形を成したことに一番驚いたのは他ならぬ自分で、今まで普通に出来ていた事が彼が絡んだ途端に出来なくなった。
例えばそれは彼の目を見て話すことだったり、彼に触れることだったり、彼の傍に居ることだったりして、彼の存在を認識するだけで心臓が早鐘を打ち、このまま止まってしまうのではないかという錯覚に陥ることも度々あった。
そして同時に思い出したことが一つ。
『約束だからね』
遠い遠い昔、彼の心に僅かでも触れることが出来たあの頃に交わした一つの約束。彼は覚えていない一つの約束。私の全てであるあの約束。
約束通り彼は傍にいる。でもそれはただ"傍にいる"だけで、約束とは違う。だって彼は迎えに来てくれると言った。確かに迎えに行く、と。


「嘘つきは嫌いですよ……沖田さん……」

彼は約束を覚えていなかった。


今もあの頃も彼の心に触れることが出来るのは、私ではなく彼女だった。羨ましいと何回思っただろう。彼女に成り変わりたいと何回思ったろう。今もあの頃も私は想いを自覚して直ぐに失恋してばかりだ。
瞼の裏に蘇る笑顔。それは確かに私に向けられたものではなかったけれど、それでよかった。彼が幸せで居てくれるなら。彼が笑っていてくれるなら、それだけでよかった。今もあの頃もそれ以外何もいらなかった。例えこの身が朽ちようとも本当にそれだけでよかったのだ。

羅刹となったその身で私を守ってくれた彼。本当に守っていきたいと彼が思っていたのは私ではないことを、何よりも誰よりも私はよく分かっていた。彼が私の中に誰かを見ていたことも知っていた。
それでも知らない振りをして彼に甘えたのは他ならぬ私。

だとしたらこれが罪で罰なのだろうか。それならば一体いつまで耐えれば許してもらえるのだろう。一体いつまで許してもらえないのだろう。



嗚呼、願うことが許されるのであれば。
彼を幸せに出来るのが彼女ではなく自分であれば、とそう思うのだ。




090125/有海
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