※鏡音レンリンの秘蜜〜黒の誓い〜パロディ。許せる方のみどうぞ。続く、かもしれない。







その少女を見つけたのはこの街でも名の知れた富豪の息子だった。エメラルド色の瞳に輝く銀色の髪を持った彼がその少女を見つけたのはほとんど偶然と言っても過言ではない。いつもは通らない人通りの殆どない裏道を通った時のことだ。
「…ん?」
聳える様にして立つ木の根もとに座り込むようにして亜麻色の長い髪を持った少女が居た。その顔は思わず息を呑んでしまうほどに美しい。しかし彼女の美しさを際立たせているのはそれだけではない。小さな背中から生えているのは雪の様に白い、それはそれは美しい一対の翼だった。
「てん、し?」
思わず零れ落ちた言葉を拾ったのか少女が此方を向く。吸い込まれそうなほどに透き通った瞳には彼しか映っていない。痺れる様な何かが背筋を走りぬけ、気付けば彼は少女の目の前まで足を進めていた。少女は何も言わず不思議そうに眺めている。喋れないのだろうか。
「隣、座ってもいいか?」こくり、小さく頷かれたのを確認してそっと隣に腰を下ろす。ひゅるり、と柔らかな風が少女の髪を揺らす。その様でさえ息を呑むほどに美しい。
何を話せばいいのか分からない。こんなこと初めてだった。全く何時もの自分では考えられないことだ。柄にもなく緊張しているのが手を取るように分かる。隣に座った少女は何も言わない。天使なのか、そうでないのか、そんなこと彼には分からなかったけれど、少女という光を内包した存在は昔彼が夢見た神の絶対性にとてもよく似ていた。
「お前、名前は?」
漸く絞り出せた言葉は何処にでも転がっている様な有触れた言葉だった。少女は不思議そうに目を丸くさせたあと、鈴を鳴らす様な可愛らしい声で「月子」とだけ呟く。それが彼女の名前なのだろうか、確かめるようにその二文字を呟くと頬を赤く染めて嬉しそうに笑う。その赤が翼の白と対比されて眩暈がするほどに美しい。ほう、と知らず知らずのうちに零された溜息を月子は拾わなかった。
「俺は不知火一樹だ。一樹で良い」
「一樹、さん?」
「おう。何だ?」
「いいえ、ふふふ。一樹さん」
心底楽しそうに名前を呼ぶ月子に彼、一樹は思わず目を反らす。名前を呼ばれることがこんなに恥ずかしい物だと今まで気付かずにいた。
「お前の翼、綺麗だな」
照れ隠しに話題を変える。一対の真白き翼は光を浴びてキラキラと輝いていた。この世のものとは思えないほどのそれに触れるのは躊躇われて、ただ見つめるだけに留める。いつか見た絵本の中、神の使いだといって人々に手を差し伸べる優しさの塊のような存在が脳裏を掠めた。
「私のなんかより一樹さんの瞳の方が何倍も綺麗です」
月子はそう言って微笑む。一気に体温が上昇したのが分かる。おかしい、まだ出逢ってそうそう時間が経ったわけでもないのに。これじゃあまるで一目惚れの様ではないか。そこまで考えて強ちそれも間違っていないのだと気付く。神の絶対性に良く似たこの美しい月子と名乗る少女を間違いなく、自分は、好いている。明確な意思を伴ったまま。
「お前、帰る場所はあるのか?」
それを聞いてどうするのだろう、それでも気かずにはいられなかった。ここで否定の言葉が帰ってくればずっと一緒に居られる。そう思ったのは嘘じゃない。
「…」
「なら…その、なんだ、俺の家に、来る、か?」
月子は何も言わない。ただ嬉しそうな顔をして一樹が差し伸べた指先を握りしめるだけだ。



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