剣道部の部室に行く為には一度外に出なくてはならない。もう春になったとはいえ、まだ夜は冷える。冷たい風に少しだけ身を震わせ部室へと急ぐ。少なくとも部室は外よりも暖かい。
「……あ、」
しかしそのまま部室に行くことは叶わなかった。彼の大切な人を見付けてしまったから。
「細波先輩」
振り返った女の人はあの綺麗な笑顔を浮かべて笑う。私とは全然違う綺麗な笑顔。
「千鶴ちゃん、お疲れ様」
細波沙夜先輩。沖田さんの幼馴染みで生徒会の書記を勤める、とても綺麗で可愛らしい方。頭もよくて優しい。料理がとても上手だと人伝に聴いたことがある。
「細波先輩もお疲れ様です。今日も生徒会のお仕事、あったんですか?」
「うん。でも少しだけだから」
時々、彼女には敵わないと心底思う時がある。それは彼女の笑顔を見た時だったり、彼女の優しさに触れた時だったりするけれど、本当に敵わないと思うのは、
「剣道部はもうおしまい?」
彼への想いを垣間見た時だ。
こんな純粋で綺麗な想いに私はきっと勝てないんだろう。こんな醜くて汚れた想いが敵う筈もない。
でもそれでも、
「…大会が近いのでまだ練習をなさるみたいです。ですから沖田さんが先に帰っていてもらいたいと仰っていました」
優越感を感じる私はなんて醜い。
「……そっか。分かった」
彼女は小さく寂しそうに笑うと頷く。しょうがない、と呟いて。
「私は千鶴ちゃんが羨ましいな」
「…え?」
何のことだか分からず、思わず聞き返そうとしても彼女は曖昧に笑ったままそれ以上は何も言わなかった。
「じゃあ私は先に帰るね。部活頑張って、千鶴ちゃん」
「あ、はい。有難う御座います!!」
彼女の後ろ姿は凛としていて、沖田さんが隣に並べばさぞや映えるんだろうとぼんやり考えた。
急に歩いていた彼女が立ち止まって振り返る。優しい声が耳に届いた。
「ねぇ、千鶴ちゃん。千鶴ちゃんはもしーーーーー」





090125/有海
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