今日は一樹がアメリカから帰国してくる日である。そわそわと落ち着かない鼓動を持て余しながら月子はゲートの前で一樹を待っていた。愛おしい人が帰ってくる日なのだ、誰よりも早く出迎えたいと思うのは彼女として当然のことなのではないか。彼女、たったその二文字だけで体温が上昇する。未だに慣れてくれない自分自身を恨めしく思いながら腕にはめた時計を見つめた。そろそろだ。
一樹がアメリカに渡ってから短くない時間が流れた。時には喧嘩したことだってあるし、順調と一言では言いきれないものだった。ただそれでもこうして離れられずにいるのは紛れもない自分自身が一樹に溺れているからなのだろう、そう考えても嫌じゃないのはきっと相手が一樹だから。
「…おかしいなあ」
ぞろぞろとゲートから出てくる人の群れを見つめていても一樹の姿が見当たらない。時間だって何度も確認した。日にちだって何度も確認した。それなのに一樹は出てこない。一樹に限って乗る飛行機を間違えるなんてことはない筈だ。それなのに、一樹は現れない。
「一樹、さん…?」
もしかして何かあったのではないか、一旦そう考えだし始めると考えが良くない方向ばかりに進んでいく。不知火一樹というあの人とは何時だって自分の幸せよりも他人の幸せにベクトルが向いているような人間だ。もしかしたら飛行場で何かあったのかもしれない。事故に巻き込まれているのかもしれない。確かに彼の大きな掌には何でも収まってしまうが、許容範囲を超えてその掌の内に収めようとする。分かっていないのだ、自分がどれだけ無理をしているかだとかが。だから他でもない自分が傍に居て教えてあげなければならない。溢れだしそうな掌から彼の荷物を分けてもらって、世界で一番優しい彼がもう二度と彼が傷付くことのないように、もう二度と彼が寂しい思いをしなくていいように。
「一樹さん…!」
気持ちばかりが先走ってまともなことが考えられなくなっている。彼に何かあったら自分はどうすればいいのか、目の前に暗闇が舞い降りる。助けて、苦しい、寂しい、
「月子、」
「…え?」
震える体を包み込んでいたのは、ふわりと懐かしい優しい香りが擽る。
「驚かそうと思ってたんだが…心配掛けたみたいだな」
「ほ、本当ですよ!どれだけ私が心配したと思って、」
「悪い悪い、ほんの出来心だったんだよ、許せ。な?」
「もう…!」その声も温もりもあの日から何も変わっていない。体の震えがぴたりと止まったのが分かって月子は苦笑した。なんて現金な体だ。
「ほら、月子。俺に言うことがあるんじゃないのか?」
くるり、腕の中で反転させられて直に彼の整った顔と向き合うことになる。頬が段々と熱を持つのを感じながらそっとその胸に顔を埋めた。
「…おかえりなさい、」
「…ただいま」
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