※星座愛人。不知火×≠月子前提、不知火×月子。不快に感じられる方は閲覧をお止め下さい。






もしかして永遠とか言うつもりですか






純情とは無縁な僕らの愛の方法を、万人が万人、咎めるのだろう。けれども、それ以外に手を繋いでいられる方法が見付からなかったので。それ以外に寄り添える方法が見付からなかったので。何時か咎められるだけの愛ならば、今だけはどうか、どうか信じさせて、ハッピーエンドなんて有り得ないと分かっているのだから。



大丈夫です、平気です。わたしのことなんか気にしないでください。どうかどうか、一樹さんが健やかでありますように。……ごめんなさい、健康しか祈れないわたしを許してください。幸せを祈ったら壊れてしまいそうなので。
今にも泣き出しそうな声(それでも月子は一樹の前で一度だって泣いたことなどなかった)が何度も何度も絶えず脳裏に蘇る。原因は分かっている。他でもない自分自身だ。祈ったって願ったって叶わない想いがある。それでもなおこちらの道を選んだのは自分自身である筈なのだ。月子の手を離したのも月子以外の人間の手を取ったのも。後悔などしていないし、それが最善の選択だったと一樹は思っている。(けれども、最高の選択とは言わないんだね、と誉には苦笑された)それなのにどうしてだろう、何時までも月子の優しい笑顔が、ずっとずうっと忘れられないあの始まりの笑顔が消えてくれない。
ただいま、そう言いながら家の扉を開ける。出迎えてくれたのは光を孕んだ亜麻色の髪を持つ――。
「お帰りなさい、一樹。今日は遅かったんだね」
「…ああ、新しく弁護の依頼が入ったって話したろ?あれの資料読んでたらいつの間にか寝ちまってさ。起きたらこんな時間で」
「もう、本当に一樹は昼寝が好きよね。あ、そうだ、金久保さんから電話があったの。後でかけ直すって言っておいたからかけ直してあげてね」
「……誉が?」
「うん。何の話かは言ってなかったけど」
何だか嫌な予感がした。誉は昔からどこか鋭い。その鋭さが、時には残酷とすら取れる鋭さが、密かに一樹の憧れだった。それは一種の恐れにも似ていて、今も変わらない。
茶会の話は前回の電話で交わしたばかりである。とすれば、話題は一つしかない。(一樹会長は昔に比べてより柔らかく笑うようになりましたね――うまく言えてなかったらごめんなさい)夕飯の仕度をしてくると言って台所に引っ込んだ妻に、誉に電話してくるよ、と一言残して自分の部屋に入る。携帯を握り締めた掌が冷たい。僅かに震える指でボタンを押すと相手は思いの外早く電話を取った。聞き慣れた、しかし今は少しだけ恐ろしい声が耳朶に響く。彼の正しさは常に真っ直ぐだ。
「……やあ、一樹」
「よう。どうかしたのか」
「分かってるくせに惚ける癖、昔から変わらないね」
「昔っからこういう性格なんだよ」
「うん、知ってる」
そしてなかなか本題を切り出さないのは誉の昔からの癖だった。
「……一樹、単刀直入に言うけど」
「……おう」
「もう夜久さんと会うのは止めなよ。それがどういうことか分かってるでしょう?その行為で幸せになれる人なんていないんだ。一樹に対して心を砕いてくれる二人に失礼だよ。ねえ、一樹、聞こえてる?」
氷の掌で心臓を捕まれたような錯覚を起こす。誉はいつも真っ直ぐだ。迷いがない。だから余計に心に刺さる。知っていたし理解していたつもりだった。この関係で幸せになれる人間なんていないだろうし、悪戯に双方を傷付けるだけだ。一樹が言えばきっと月子は優しく笑って受け入れるだろう、ずうっとずうっと忘れられなかった、今でも忘れられない、あの始まりの笑顔で。だからこれは一樹のエゴだ。何が正しい選択なのかくらい分かっている。けれども、遠いあの日を、始まりのあの日を忘れられない心が、そう選択することを許さない。
「……分かってる、分かってるよ」
「本当に分かってる?一樹、君は、」
「分かってる。分かってるんだ……」
(かずきかいちょう、あのね)そうやって名前を呼ぶ声が。果してどちらのものだったか。そうやって名前を呼んで微笑む顔が。果してどちらの表情だったのか。明確に理解してしまった一樹はそっと目を伏せる。何時か離さなければならない掌を想いながら。












title:わたしのしるかぎりでは
ゆずこ様へ。リクエスト(星座愛人な不知火×月子)本当にありがとうございました。ゆずこ様のみお持ち帰り可能です。よかったら。
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