ざわざわと煩い店内を梓と月子は手を繋いで歩いていた。久しぶりに部活が休みということで二人きりで出かけたいと梓が申し出たのだ。梓と二人きりの時間が中々取れず顔には出さないものの寂しい思いをしていた月子にとっては願ってもみない誘いであり、二つ返事をした時の梓の擽ったそうに笑ったあの顔をまだ覚えている。
「梓くんはどっちかというと猫みたいだよね」
偶然通りかかったペットショップの前で月子は笑いながらそう声をかける。可愛らしく飾られたショーウインドウの内側では小さな子猫が眠たそうに欠伸を一つ。猫でも犬でも何でもいいのだが生きものを飼ってみたいと常々月子は思っていた。毎日充実していて寂しいなんてことはないのだが、ふとした瞬間、たとえば一人で部屋に居る時など寂しくなることがまだあるのだ。そんな時愛くるしいペットがいればきっと楽しいだろう。そこまで考えて、繋がれていない方の指先をそっとガラスに這わせる。でも生きものはいずれ死んでしまう。ペットは可愛いけれど、寂しさを埋めてくれるけれど月子を置いていく。その絶対的な差が悲しい。置いて行かれた時の寂しさを考えたらペットなんて飼わない方が良いのかもしれない、そう思った時だった。今まで黙ったままでいた梓が小さく笑う。
「先輩は僕を飼いたいんですか?」
「へ!?な、なんでそうなるの!?」
「だって先輩、ずっと物欲しそうな顔で猫のこと見つめていましたし、それに僕のこと猫みたいだって」
「そ、それは言葉の綾だよ、綾!」
「そうなんですか?残念。先輩になら飼われても良いんだけどな―、僕」
「もう!からかわないの!」
梓は真意の読めない顔で笑った後繋いだ指先に力を込めた。その力の込め方がまるで置いて行かれまいとしているようで、月子は僅かに首を傾げる。
最近の梓はどこかおかしい。部活の時でもぼんやりとどこか遠くを眺めていることが多くなった。話しかけても月子を見ているようで更にその奥を見て、月子が傍に居るのに寂しそうに笑うことが多くなった。一体何があったのかと問いただしてみても何でもないと曖昧に笑うだけ。他の誰に、特に仲の良い翼に尋ねてみても良く分からないとの返答しか返ってこない。自分のせいで梓がこうなってしまったのなら何とかしたいのに、解決する方法が見つからない。
「…?梓くん?」
気付けば梓はペット用品の方に向かって歩き出していた。手に取ったのはどこにでもあるような鈴の付いた赤い首輪だ。梓の指先が触れる度、リンと澄んだ音が鳴る。
「首輪?梓くん、何か飼ってたっけ?」
「…いいえ、何も飼ってませんよ」
「ならどうしたの?そんなに首輪ばっかり見つめて」
「あれ?先輩、寂しいんですか?」
「な、ち、違うよ!」
ケラケラとおかしそうに梓は笑った後首輪からそっと指を離す。リンと、音が鳴った。指先が離れた後も梓はずっとその首輪を見つめたままだった。
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