1.結局夏はどこにも行けなかったなあ、と缶ビール片手にベランダに座り込んだ高尾くんはそう言って、少し赤くなった顔で笑った。漸くレポートの目処が立ったと意気揚々とボクの部屋に転がりこんできたのが夕方だから、かれこれ彼はも三時間近くそこにいる。ボクはといえばそんな彼に付き合ってベランダ近くのソファに座りながら同じように缶チューハイを煽る。「レポートと練習だけでまるまる8月潰れるなんてな」「でも楽しかったじゃないですか」「練習は、ね。レポートは全然楽しくなかったっての」「まあ、そうですけど」ボクよりもよほど忙しい学科に身を置く彼は、毎日必死な顔をしてレポートに向かっていたっけ。そのせいで8月は夏らしいことを一つもしていないし、これといってどこにも出掛けられなかった。かといって別にそれが嫌とは思っていないので、別段不満も何もないのだが。「テッちゃんは行きたいとことかないわけ?」「どういう意味ですか?」「オレと、どっか行きたくないの?折角の夏休みじゃん、オレ、デートとかしたかった」「そうですねえ…行きたいところがないわけではないですが、ボクは近くにきみがいれば割としあわせなので」「…………テッちゃんは無欲だなあ」呆れた顔をする高尾くんにこれ以上のわがままはないと思いますが、と言うと、照れたのか更に顔を赤くした。「テッちゃんには敵わないよ、ほんとさ」そう言ってはにかむ彼は何より美しかった。
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