嬉しくて嬉しくて仕方なかったってことは、今も昔ももちろん未来でも、いつでも胸を張って言えるくらい、確かなことだったから。どうしても伝えたかった。最後ならなおさら


どんよりと重苦しい雲が空に浮かぶ日だった。スカートの裾を指先で摘む。夕暮れの交差点は仕事帰りの疲れ果てたおじさんが黒い鞄を抱えて渡っている。白線の上を歩いてるとトオルが左手の指先に触れた。応えるみたいに二倍ほど大きい手をにぎる。上目でトオルを見上げると歯を見せて笑った。交差点を渡りきった辺りでトオルが口を開く

「雨、降るかもな」
「スカートこの前買ったばかりになのになあ」

空に向けて掌を見せて雨が降ってないか確認する動作をするとトオルも同じように掌を空へ向ける。ちょっと嬉しかったりした。トオルにはいわないけどね

「そんなん洗えばいいじゃん」
「もー、これだからトオルはいつまでもトオルなんだよ」
「言ってる意味がわかんないだけど」
「そのままの意味だよ」

トオルが小さくため息を吐く。どうせまた吉川めんどくせっなんて言うんでしょう。ちょっとくらい私の気持ちくらい考えてくれたっていいのに。さっきおんなじ動作をしたこととか、嬉しいって思ったことくらいわかってくれたっていいのに。私がトオルのことが好きってことだってもっと理解して欲しいのに

「そういえばさ、吉川もう短大卒業するんだよな」
「そうだけど、」
「…うん、そっか」
「何?文句あるの」
「いいや」

トオルを見上げると何だか嬉しそうに歯を覗かせて笑っていた。卒業したらなんかトオルに都合いいの?尋ねたらトオルは軽く頷く

「吉川、付き合おう」

ぽつり、雨粒が頬を濡らした。聞き間違えでもなく言われた。なんだ、付き合ってないの?よく言われていた。揺るぎないのは私がトオルを好きなことぐらい。時々、トオルはほんとに私が好きなのか不安になったりだとか、決定的に私とトオルには言葉が足りない。ずっと前から知っていた。でも私がただ好きっていう事実だけは捨てられなくって。言葉が足りないのは付き合っていなかったっていうのが大きいんだろうけど…トオルのさっきの言葉は何。

「…何」
「何ってそのままなんだけど」
「ふざけ」
「ふざけてるように見えんの。返事は?」

そんなの馬鹿、決まってるじゃん。ずっと一緒に居たいんだから。握る手をより一層強くした


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