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  微睡みのゴゴサンジ


「…なに、やってんのおまえ」
『うわ、顔赤いですね…』

ぜえはあと荒い息で私を出迎えた宮地先輩。
マスクをつけている姿はもう完全に風邪を引いた人だ。

「つか、来んなよ…轢くぞ…!」
『そんな弱々しく言われても怖くありませんって。お邪魔します』
「ばか、やめ…ろ」
『うわ、っ』

どうやら限界がきたようで体をぐらりと傾かせた。
幸いにも私の方へ倒れてきたのでその長身を受け止める。
ちょっと重かったけれど、二年間とちょっとバスケ部で鍛えたのでどうにか耐えることができた。

『先輩、中入りますよ!』
「…わり、」

宮地先輩を支えながらアパートの玄関に入る。
そこで先輩はなんとか持ち直したのか私から離れる。

「…伝染っても、しらねえからな」
『それは自己責任なので、そうなったら周りに伝染らないように努めますよ。ほら行きますよー』
「くそ…」

先輩の手を引いて、寝室へ向かう。相変わらず綺麗にしてるお部屋だ。
「誰から聞いたんだよ」と大人しく手を引かれている宮地先輩が問う。

『木村先輩と大坪先輩から回り回って私のとこに』
「言うなって、いったのに」
『私に直接言ってないから怒んないでくださいね。怒るなら爆笑しながら言ってきた高尾くんに』
「…部活は」
『キャプテン直々に看病命令が出たので』

「あいつ轢く…」と弱々しく言った頭にはきっと今年キャプテンになった笑い上戸の彼が頭に浮かんでいるのだろう。
その体をベッドに横たえて、来るときに買ってきたビニール袋を漁る。

『先輩、桃缶食べれます?それともゼリーがいいですか?』
「………桃」
『はいはい。じゃあちょっとお粥作ってから一緒に持ってくるので待っててください』

キッチンへ向かおうと立てば、くんっとその体に下から負荷がかかった。
見れば先輩が私のスカートの裾を掴んでいた。

『えーと、あの…先輩?ていうかスカート掴むってどうなんですか、中見たいんですか?』
「もう見えた。お前その柄好きな」
『ちゃっかり見ないでくれますかね…。寂しいならそう言えばいいじゃないですか』

私だって会いたかったんですよ、そう呟きながら腰を降ろす。
さらさらの先輩の髪に指を通すと、先輩は気持ちよさそうに目を眇めた。なんだか猫みたいだ。

先輩が大学に入ってもう二年経ち落ち着いたからとバイトも始めて、私はマネージャーに専念していて会う機会はめっきりなくなった。

会いたくないわけない。
前まではほぼ毎日のように顔を合わせていたのに最近は連絡さえもままならない。
先輩疲れてないかな、今バイト中かな、と気にして結局は携帯の電源を落としてばかりだった。

「…前まで特別だったんだな、ってやっぱ思うわ。お前居ないと俺だめだわ」
『…なんですか?デレですか?デレ期?私糖分の過剰摂取で今悶え死にそうなんですけどツンギレどこやったんですか?』
「うるせえ、お前ギャップ好きだろ」
『なんという計算尽くなギャップ!好きですけど!』

頬を大人しく撫でられている先輩かわいい、超かわいい。
そしてその手を掴まれる。

『寝てていいですよ、』
「…寝たらどっか行くだろ」
『ご飯作るだけですよ、見えるでしょ』
「…ご飯とかいらねえから、そこ居て」

最後の方は声が小さくて聞き取りづらかったがなんとか聞こえた。

ああもう、しょうがないんたから。
かっこいいくせに物騒なくせに、たまにかわいいんだからほんと。そう言われたら聞かないわけないじゃないですか。ずるい。
制服のポケットから携帯を取り出していつもより更に幼い顔の寝顔を撮る。
お礼はこれでいいや、なんて思いながら私も目を閉じた。起きたらお粥作ってあげよう。

 




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