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  毒薬は君の胸に埋め込んだ


「なまえちゃーん!デートしよう!」

いきなり投げつけられたその言葉に『は…?』と思い切り顔を歪めてしまった私は悪くない。
ぽろりと食べていたチョコレートを落としてしまった。ああ、勿体無い。
なんせ、

『私森山と付き合ってたっけ』
「いや!でもお互いをもっと知るためにデートにいこう!」
『丁重にお断りさせていただきます』

馬鹿なんじゃないの。いや、森山由孝という男は女のことになれば途方も無い馬鹿だった。

「なんでだよ!」
『森山とデートにいく理由がないからだよ』
「くそう…こうなれば奥の手だ…!」

そう言って懐から出した長方形の紙。それを私の前に掲げる。

「なまえちゃんの行きたがっていたケーキ屋の食べ放題無料チケッ」
『行きます』
「マジで!!!」

森山の言い終わらない内に私は頷いていた。
だって食べいたいんだもん。あそこのケーキ屋美味しいんだよ?

「じゃあ今度の土曜空いてる?」
『空いてる。超空いてる。ていうか空いてなくても空ける』
「…態度変わりすぎじゃないか。由孝、なまえちゃんがお菓子につられて誘拐されないか超心配」
『馬鹿にしてんの』

いえ滅相もない!と叫んだ森山と土曜の待ち合わせを決めて、私はチケットをゲットした。



『森山』
「お、おはようなまえちゃん」

ていうか待ち姿が様になる。…可愛い女の子を探してキョロキョロしてなかったらの話だけれど。
こいつはほんとに残念だなあ、なんて呆れていたら森山がこちらを凝視しているのに気付かなかった。

「…なまえちゃん」
『…なに』
「なまえちゃんって、脚綺麗だよな」
『…どこ見てんの、吹っ飛ばすよ』

ごめんごめん、と笑う森山は私の手をとって歩き出した。

『え、ちょっと』
「いいだろ?今日だけだからさ」

でも、と抵抗しようとした口を閉じた。
思ったよりも大きな森山の手と、歩幅が絶対的に違うはずなのに私が苦にならないスピードはなんだか心地よかった。


『美味しい…!!』

私のお皿には色とりどりのケーキが並んでいて、ここが天国だったのか…!と一瞬考えた。

「なまえちゃん、甘いもの好きだよね」
『うん、甘いものがないと生きていけない。…そういう森山はあんまり食べてないね。もしかして甘いもの嫌い?』
「いや、そういうわけじゃないけど。食べ過ぎたら胃もたれしそうだし、あと別に俺が食べたかったわけじゃないし」

森山のお皿にはチーズケーキが三種類。そしてその横にコーヒーだ。
そしてチーズケーキも一口二口食べたくらいである。

『食べたいからチケット持ってたんじゃないの?』
「なまえちゃんはこういうところが鈍いと俺は常々思うよ…」
『…馬鹿にしてるの?』
「馬鹿にしてるというか…、これが良くも悪くもあるなあって思ってるけど」

それって馬鹿にしてませんかね、とザッハトルテを口に運びながら思ったけれど今は森山よりもケーキである。
もぐもぐと口に放っては味を楽しんでいる、と森山がじーっとこっちを見ているのに気づく。

『…あんまり見られてると、食べにくいよ』
「いや、なまえちゃん美味しそうに食べるなあって」
『だって美味しいよ』
「うん。そういうとこ、可愛い」

へらりとあんまりにもだらしなく笑ってさらりと言うものだから行儀悪く口を開けて固まってしまった。
じわじわと頬が、耳が、顔全体が赤くなるのを感じる。

『い、まのはずるい』
「俺思ったことを言っただけなんだけど…、もしかしてなまえちゃん可愛いって言われるの弱い?!」
『あああああ!森山うるさい!やだ!』
「うわああなまえちゃんかわいい!!」
『森山だまれ!!』

指摘されて余計に赤くなった頬を手で隠す。
森山は依然としてかわいいかわいい言い続けている。やめて、ほんとに…!!

「…俺さ、なまえちゃんが何か食べてるときの顔好きだよ。凄い美味しそうに食べるからさ、可愛いなあって」
『…まだそれ言う』
「うん、言う。だからさ、これ」

彼はまたこの間のように懐から長方形の紙を取り出した。色合いは今日のチケットとは違う。

「今度はパスタとデザートのバイキング」
『いきます!』
「じゃあまた今度な!」

完全に餌付きされている。
にこにこ笑っている森山に嵌められた感満載だけれどしかしこのお店も行きたいと思っていたところ…!森山のリサーチ力おそるべし…!


そうしてあれよあれよと美味しいお店に連れていかれ、可愛い可愛いと口説き落とされる未来が私に待っていた。



◎という策士森山

 




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