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  アバンチュールはまだ続く


ふびゃあっ、と色気もクソも感じられない悲鳴をあげられたらこっちも何だかやるせない。

「………夢」
『はははははいっ!?』
「びびり過ぎでしょ」

はあ、とため息をつけば夢はだって怖いんですもん!と涙目で叫ぶ。
弓道部の合宿で実施された肝試し。
脅かし役には今年入部した一年三人と月子先輩がしている。
タネさえ分かればまったく怖かない。
だと言うのに、一歩後ろを歩く夢は風で木が揺れた音なんかで『ふぎにゃあ!』なんて悲鳴をあげている。

『あ、梓先輩はなんで怖くないんですか…』
「お化けとか非科学的なもの、僕信じてないから」
『心霊番組とか見た方がいいですよ!あれは!絶対に!います!』
「怖いのに見るとか馬鹿なの?」

僕の言葉が図星だったようで夢は言葉を詰まらせた。
まさにぐうの音もでないってやつだ。

『じゃ、じゃあ先輩は運命とかも信じてないんですか?』
「強引に逸らしにかかったね。…どうかな、あんまりそういう風に思ったことないし」
『あー先輩、なんか僕の行く道は僕が決める!ギアス発動!みたいなタイプですよね』
「馬鹿にしてるだろ」

頭を叩いたらあいてっ、と間抜けな声があがった。

「まあ、否定はしないよ。なんだって僕の行く先を別のなにかに決められなきゃならないのさ」
『私は信じてますよ』
「…へえ、どんなときに?」

僕が叩いたところをさすりながら彼女は小さい声で言った。

『…先輩と会えたことは運命なんだって思ってます』
「…それって、」
「うひゃああああああああ!!!!!」
「やばい!あれは絶対やばい!」
「うわあああああんんん!なんなんですかあれ!」

盛大な悲鳴をあげながら茂みから飛び出してきたのは白鳥先輩たちだった。なぜ。

「…なにやってるんですか、ていうか先輩たちもっと前でしたよね?」
「出た!マジ出た!」

犬飼先輩が僕の問に答えないでそう叫ぶ。

『出たって…?』
「だからマジのお化けだって!」
「俺らもう脅かし役とは全員遭遇してたんだけど、丁度折り返したぐらいに…こう、白い着物を着た女の人がさあ!」
「ああああああ白鳥先輩やめてください!ほんと、思い出すだけでもぞっとするんですから!」

小熊なんてもう涙目、というか泣いている。
へー出たのか。夢の方を振り返ればガタブルと顔文字のように震えている。

「大丈夫?」
『帰りたい!先輩帰りましょう!帰らせてください!』
「嫌だ、ほら進むよ」

鬼いいいいい!!!と叫ぶ夢の手を掴んで強引に進む。
後ろで犬飼先輩たちが「達者でなー」「お前たちが帰らなくなっても俺は忘れないからな…!!」とかなんとか叫んでいた。勝手に殺さないで欲しい。

「やっぱりこういうことしてると出るんだな」
『せ、先輩、帰りたい』
「だめ。どうせなら見てみたいだろ?」
『先輩の心臓毛が生えてるとかのレベルじゃない…!』

見てみたいとか呪われたらどうするんですか!!
最近のお化けって呪ったりするのだろうか。

「お化けが居るんなら、非科学的なものを信じてみたっていいだろ?」
『………お化けを確認しなくても信じて貰えませんかね』
「それは夢の努力次第だね。だって僕は運命の相手なんだろ?」
『!が、頑張ります!』

涙目の夢が少し可愛いと思ってしまったのは所謂吊り橋効果ってやつのせいにしておこう。


2013.09.23 望

 




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