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  愛を唄おう


「俺、夢のこと好きだよ」

錫也くんに告白されたときのことは忘れられないと思う。
近所であった小さな夏祭りで、BGMに花火の音が響いていた。

『え、っと…それは彼女にしたい的なそういう意味で…?』

恐る恐る問いかける私に錫也くんは苦笑いでこう答えた。

「彼女にしたくなかったら二人でなんて誘ったりしないよ」

それもそうだ。うわ、私なんで気付かなかったんだろう、と焦ったのを覚えている。

『じゃあ、その、よろしくお願いします…』
「!…こちらこそ、」

元々錫也くんに好意を寄せていた私は、めでたく錫也くんと付き合い出したのだ。


『雨だー…』

そして季節を越えて、また七月がやってくる。
今日の夏祭りは中止かな…、なんて灰色に染まった空を窓から身を乗り出して眺めていた。

「あんまり乗り出すと落ちるぞ?」
『落ないよー』
「夢はそそっかしいから俺が心配なの」

そう言いながら後ろからお腹に腕を差し込んできたのは錫也くんで、過保護な彼らしい言葉だ。
私はその腕に大人しく抱き抱えられながら空をじっと見る。

『晴れないね』
「何回見たって晴れないって」
『それはそうなんだけど…』

先週から今日は雨だと言われていて、それでも晴れないかなあなんて思っていたのは私だけなんだろうか。

『だってあの夏祭りは特別だもん…』
「俺だってそうだよ。だけど、空より俺に構って欲しいなーって」
『…ん、ごめんなさい』

謝らなくていいよ、と錫也くんは私の頭を撫でた。


結局、夕方まで晴れることはなくざあざあと雨は降り続いていたため夏祭りは中止となったらしい。

お風呂からあがって寮で寛いでいたところに携帯が鳴る。

『もしもし?錫也くんどうしたの?』
「夢、今出てこれそう?」
『いま?大丈夫だけど…どうかしたの?』
「まあまあそれは後からで、寮の前で待ってるからちゃんと着替えてこいよ」

部屋着のタンクトップにショーパンであることがばればれだ。
上に何か羽織ればいっかーなんて呑気に思っていたのに!


「お、ちゃんと着替えてきたなー」
『だって錫也くん怒るじゃない…』
「さすが夢、わかってる」

空色の傘をさして片手にビニール袋を持った錫也くんは私の格好をみて満足げに笑った。
そのまま自然に手を引かれて傘のなかに入れられる。
目的地も分からない私は歩き出した錫也くんに着いていくことしか出来なくて。

『錫也くん、どこ行くの?』
「ん?秘密」

にこり、と笑う錫也くんにこれは絶対教えてくれそうにないと確信した。


連れてこられたのは学園近くの公園だった。
屋根のある休憩所に座る。雨宿り?なんて思っていると錫也くんがビニール袋から何かを取り出した。

『…花火』
「打ち上げじゃないけどね、今年はこれで我慢して欲しいな」

雨が降ることが分かったときから錫也くんは考えていたのかもしれない。

「記念日だし、俺もちゃんと祝いたかったんだ。こんなのしか用意できないけど…」

じわりと涙が滲んできたので、錫也くんに抱きついた。

「うわっ、びっくりした…!どうかしたか?」
『…錫也くん、すき』

こんなの、じゃない。全然嬉しい。錫也くんが考えてくれるなら全部嬉しい。
つまりながらそう伝えると、「…俺も好きだよ」と錫也くんが優しく頭を撫でた。

『でも来年は夏祭り行きたい…』
「うん、晴れたら一緒に行こうな」

ほら一緒にしよう、と背中を撫でられて耳元で甘く囁かれた。


▽Happy Birthday!
for のいんさん!

2013/07/19 望


 




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