七夕インベンション
「今年の七夕は曇りらしいな」
『あー…そうみたいだね。まあ雲の上じゃあちゃんと晴れてるから織姫も彦星もちゃんと会えてるよ』
空を仰ぎみる錫也。つられて私も書類から顔をあげる。
星に関する学園に所属してる身としてはやはり七夕の天気は気になるものだ。
「いやまあそれもそうだけど、…お前の誕生日だろ。…あ、今年は天羽くんと一緒か」
『うん、そういう話になったからねー』
「じゃあ晴れてた方が嬉しいだろ?」
『まあ、そうかも』
晴れると良いな、錫也はそう言って笑った。
話しはここで終わりかと思いきや、そんなことはなかった。
「夢は立ち入り禁止!!」
次の日、翼のラボにはそんな張り紙が貼られていて。
『…なにこれ?』
近くに居た颯斗くんにそう問いかけると綺麗な顔でくすくすと笑い「さあ?僕にはさっぱり」と答えた。
それ絶対知ってる顔じゃない…、と思いながらも颯斗くんはバカじゃない。きっとぽろっと言っちゃったりしないだろう。
うーん…分からん、翼の考えることは相変わらず分からない。私一応彼女なんだけど分かんない。
なんか怒らせるようなことしちゃったかなあ…、なんて悩んでみるものの思い当たらないため大人しく翼の張り紙に従うことにした。
『あー…やっぱり曇っちゃったかあ…』
生徒会室の窓から空を仰ぐ。時刻は八時を過ぎたが空に星は見えない。
ついでに翼のラボにもいまだにあの張り紙がしてある。なにかしちゃったかなあ…。
翼のラボをじいっと見ていると部屋の中から「できたああああっ!!!!」と叫び声が響く。
何事かと思えばバァン!!と扉が空き、翼が姿を現した。
「夢!行こっ!」
『え?は?え、なに…!?』
混乱したまま翼に引っ張られて連れてこられた先は校庭。
校庭の真ん中には箱のようなもの、………きっとあれは翼の発明品だ。
私をそこに連れて行き、翼はポケットから小さな部品を取り出した。
そうして箱の横にしゃがみ翼はドライバーを駆使してその部品をはめ込んだ。
「…よしっ完成なのだー!」
『…翼、なにこれ?』
翼はにこっと満面の笑顔を見せて「お天気よくなーるくんなのだ!」と言う。いやそうではなく…、あ相変わらずのネーミングセンスですね…。
『…天気がよくなるの?』
「うぬ!」
そうして翼はお天気よくなーるくんの赤いスイッチを押した。
お天気よくなーるくんの天井部からしゅるるるると煙をはきながら上へ上へと飛んでいく。
………念の為に発明品からはちょっと離れておいた。うん、だって、ね?
『お、おお…?』
爆発しないか?なんて思っていたら爆発しないわけがなかった。(翼には悪いけど)
上を仰ぐとドーン!と派手な音を響かせて頭上で花火があがった。
そして当然のようにちょっと離れたところでお天気よくなーるくんも爆発したのだ。
「ぬあああ!なんでなのだ!?」
こんなはずじゃ、と慌てる翼には悪いがふっと思わず吹き出してしまった。
「ぐぬぬ…夢のために晴れにしようと思ってたのに…!」
『私のため?』
「だって、…夢の誕生日だから、晴れがいいって月子から聞いたのだ」
きっと錫也から月子に伝わったのだろう。
つまりもしかして。
『…ずっとラボに籠ってた作ってたのはこれ?』
「夢が喜ぶと思ったのだ…」
『うん嬉しいよ、嬉しいけど…立ち入り禁止はちょっとショックだったなあ…』
思い出すように呟くと翼がうぐっと呻く。
ちょっと傷ついたんだから、と言うと「ごめんちゃい…」と謝る翼の頭にしょぼくれたうさぎの耳が見えた。
『いいよ、もう怒ってないし。それにね、翼がこういうことしてくれるっていうの嬉しいけど私は翼がいてくれるだけで嬉しいんだよ?』
「…俺も、夢がいたら嬉しいのだ!」
『うん、じゃあ…片付けようか、これ。それで終わったら一緒になんかしよ?』
がれきと化した翼の発明品を指して言う。
うぬ!と元気よく返事した翼にああ、私やっぱり好きだなあと思うのだった。
▽Happy Birthday!
For 七葉さん!
2013/07/07 望