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  真夏の弾丸


「夢っちー!」
『う、わっ!?』

待ち合わせ場所で不意に抱き着いてきたのは待ち合わせ相手の涼太だった。
190目前という相手が衝突と言っても過言ではないくらいの勢いで抱き着いてきたのだ。
倒れかけた私のお腹に腕も回してがっちりホールドしてなかったら裏拳でもかましてやるところだった。

「ごめん夢っち!お待たせ!」
『別にそんなに待ってないけど…』

私を解放して、涼太は額についた汗を拭う。
当然ながら涼太は帽子と眼鏡をしているわけで、(人気モデルだから、これでも一応)いつもと違う雰囲気に少しどきりとしてしまう。

「夢っち、浴衣すっげー可愛い」
『…涼太も、かっこいいよ』
「やだこの子可愛いー!」
『だからいちいち抱き着かないでよ!』

しかも公衆の面前で。ああ…あそこの親子連れが「ママあれなにー?」「見ちゃいけません!」みたいなやり取りしてるのが手に取るように分かる…。
いい加減鬱陶しいので涼太の頭をぺしりと叩く。

「痛い!」
『私は恥ずかしいの。ほら、何か食べよ?』
「何食べたい?奢るッス!」
『りんご飴』
「何そのチョイス…、ほんと俺の彼女可愛い………!」
『お前はそれしか言えんのかーーー!!!』

誰か、突っ込み急募………いや笠松先輩を所望する。

『笠松先輩呼ぶよ!』

脅しのつもりで言ったら涼太の雰囲気がさっと変わった。…あ、あれ、なんか押しちゃいけないスイッチ押しちゃった気分。

「ふーん、俺と二人で居るときに他の男の名前出すんだあ…」
『え、あ、いやちがくて…その、』
「そーいうのよくないと思うっスよ」

こ、こわい。いや、怖いというか妖しい…?
前にも何度か遭遇したことはあるがそのときも散々な目にあった。きっと今回もそういう流れな気がしてならない。

『あ、あの…涼太…』
「ん?」
『…ご、ごめんなさい』
「…ぶはっ!別にそんな怒ってないッス!ただちょーっと妬いただけで」

そう言って人差し指と親指で隙間をつくる涼太。

『………気をつけます』

謝る私に、涼太は「夢は俺だけ見てれば良いよ」なんて言いながら私の頭を撫でた。
あ、危なかった。これでスイッチオン状態の涼太からの回避は出来た、…と思っていただけだった。

気付けばすぐそこまで涼太の顔が迫ってきていた。

『え、』

ふにっと柔らかい感触を感じる。
え、あれ、キスされてる?
と、思ったときには涼太の顔は離れていて。

「はは、口開いてるッスよ…かーわい」
『…』

にやり、と眼鏡の奥で涼太の目が細められた。

『なっ、…にしてんのバカっ!』
「顔真っ赤で怒られても怖くないッスー」
『あああああ!もう!』

叩こうとして振りかぶった手を涼太は持ち前の反射神経で避ける。
そして空を切ったその手を掴んで私を引き寄せた。
ぽすりと行き着く先は涼太の腕の中。

「ほんとはね、」
『っ…』

口で言えないくらい妬いたッス。
ゼロ距離で囁かれたその言葉は弾丸のように私の頭を貫いた。


2013/08/20 望

 




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