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  パウダーシュガーの味は如何に


※あのこif設定

「夢ちゃん!海行こ!」

笑顔の和成くんがそう提案してきたのは夏休み前のことだった。


そうしてそれが実現されたのは七月も終わりに差し掛かるころで。

「あ、夢ちゃん見えてきた」
『ほんと?』

バスで海へと向かっていた私達。和成くんが指す方を見ると水面が太陽に反射してきらきらしているのが見えた。

『うわあああ…!』
「おーめっちゃキレイじゃん」
『楽しみ!』

そう言うと和成くんは俺も、と笑って私の頭を撫でた。


この日のためにダイエットをし、和成くんが好きそうな水着だって買ったのだ。
お、お腹が乗るなんてことはないはず…!!
下着のみとなった私は恐る恐る自分のお腹を見る、と。

『(ほああああ…!痩せてる!痩せてるよ!)』

感動で涙が出そうになる。大げさではない。
夏休みのアイス禁止令を守っていた時期を思い出しながら水着へと着替え始めた。ほんと、頑張ったよ…。

脱衣所から出ると和成くんが入口付近で待っていてくれて、すぐに私を見つける。ホークアイの和成くんはこういうときすぐに見つけてくれる。
ただ和成くんに悪戯をしようとしてもすぐにバレてしまうのでそれはそれで面白くない。

「………夢ちゃん、」
『う、あ…そんな見ないで…』

じいっと私を見る和成くんに思わず顔を逸らしてしまう。
痩せたとはいえ、水着姿を見られるのは恥ずかしいものだ。
一応パーカーは脱いでるものの、むき出しの足とかがね…!しかもチャックを開けているので貧相な胸まで丸見えである。何で閉めてこなかったの私のバカ!今更嘆いても遅いのである。

「…写真とっていい?」

しかもあろうことか和成くんは真顔でこんなことを呟いた。

『だ、だだだめに決まってるでしょ!』
「はは、嘘に決まってんじゃーん(チッ…あとで盗撮しよ…)」
『絶対駄目だからね…』

念のため釘をさしておいた。(だって目がマジだったもん…)するといきなり和成くんが自分の羽織っていたオレンジ色のパーカーを脱ぎ出した。
バスケで鍛え抜かれた身体が惜しげもなく曝されて、目のやり場に困る。
そして和成くんは何を思ったか、こう言った。

「夢ちゃんもパーカー脱いで」
『へっ?!』

驚く私なんて意に介さず和成くんは私の白のパーカーに手をかけて脱がせる。
えっ、私何されてるの。むしろ何されるの?!
抵抗も出来ずそのまま脱がされた私を和成くんがじっと見る。

「へー…秀徳のユニみたいだな、可愛い!」
『うあ、…』

私が買ったものはオレンジの生地に縁が白のフリルで飾られていて、黒のリボンがワンポイントでついてるビキニだった。
かくいう私も初めて見たとき『秀徳のユニフォームみたいだなー…』なんて思って買ったのでバレて若干恥ずかしい。
いやしかしこのガン見されている状況の方が何倍も恥ずかしい。誰か助けて!

「そんじゃこれ着て」
『へ…』

そうして差し出されたのは和成くんが着ていたオレンジのパーカーだ。
混乱する私に和成くんは頭をかく。

「誰にも見せたくないなーって独占欲と、まあ牽制っつーの?男物のパーカー羽織ってたらそれなりに効果あるっしょ。…ま、別に分かり易いやつもあんだけどね」
『ち、ちちなみに別のとは…』

恐る恐る聞くと和成くんはにこりと笑う。
あ、これ駄目なやつだ主に私にとって!そう感じたがもう遅かった。
首を指先でとんとんと二回叩き、そしてそこに顔を寄せられ、低い声で囁かれる。

「…付けてほしい?」

さすがに“ナニ“をつけるか分からないほど子供ではなかった。

『ご、ごごごご遠慮します!』
「そっか、残念だなー」

もう一生和成くんに勝てない気がする…。私は赤い顔のままオレンジのパーカーに腕を通した。


「んー…」

夢ちゃんの浮き輪を掴みながら泳いでいると空が目に入ったのだが、なんだか薄暗くなってきている。
…これは一雨くるか?

「夢ちゃん、雨降りそう。夕立だと思うけど一旦上がろうぜ」
『…か、雷くるかな』

不安げに空を見上げる彼女は雷が怖いのだ。

「どーだろ。でも危ないしとりあえず雨宿りしよ」

そう言いながら俺は浮き輪を掴んで砂浜に向かって泳ぎ出した。

「うわっやっぱ降り出した!」
『危なかったね…』

海から上がった瞬間に土砂降りの雨が襲った。
遠くで稲光も見えて夢ちゃんがびくりと肩を震わせる。
繋いだ手ごしに震えたのが伝わり、夢ちゃんの顔を伺う。

「大丈夫?」
『ん、…ちょっと怖いけど』

和成くんが居るから大丈夫、とへらりともう幸せ一杯でーすみたいな顔で笑うもんだから俺まで幸せになってしまうわけで。

「夢ちゃんそーいうとこ狡いよね…」
『ええっ?!なにが!』
「分かってないとことかも狡いわー」
『分かんないよ…』

うんうん夢ちゃんは分からないままで良いよ。
そのうち万が一俺が襲っても夢ちゃんのせいに出来そうだし、いやしないけど。
………しかし。

「どーする?時間も頃合いだしそろそろ帰ろっか?」
『そうだね、疲れちゃった』
「じゃ、着替えよっか」

俺がそう提案すると夢ちゃんはえっ、と声をあげた。そして震える声で「い、いま…?」と問いかける。
…いや、怖いのは分かるんだよ、うん俺もそこまで鬼じゃないし。しかしですね。

「ずっとバスタオル羽織っただけだと不安になるんだよね、分かる?」
『わ、分かんない』

分かってよ!今俺と離れたくないから分かんないフリしてんのかもしれないけど分かってよ!
水着にバスタオル羽織っただけの姿とかもう生殺しだからね!!!?

「…夢ちゃん」
『だ、だって怖いもん…』
「俺も(いつ夢ちゃんを襲うか分かんないから)怖いもん」

そう言うと夢ちゃんはうっ、と小さく呻く。
夢ちゃんは俺が困ったり、悲しんだりするのに滅法弱い。
そんな優しい夢ちゃんが大好きだけど今はそれを利用させてもらうことにする。

『じゃあ…着替える』
「うんうん、外で待ってるから」
『…居なかったら先に帰るもん』
「えー?帰れるの?雷鳴ってるのに一人で?」

どうせ出来ないんだからそんな意地悪やめておけば良いよ、と俺が笑顔で反撃すると夢ちゃんはばか!と真っ赤な顔で俺を叩いた。裸のとこ叩くのは痛いから!!!

帰り道拗ねた夢ちゃんを宥めるのに一苦労したこともまあ良い思い出である。


2013/07/22 望

 




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