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  これも全部夏のせい


『高尾くん!私遅刻した…?』

待ち合わせ場所で既に待っていた俺に、夢はそう不安げに問いかけるのでなんだかその顔が面白くてぶはっと吹き出してしまった。

「だーいじょうぶ。俺が早めに来てただけ!」
『早めって…いま二十分前だよ…、部活で疲れてるんだからゆっくりしてくれば良かったのに…』
「部活が早く終わったから楽しみで早めに来てたんだよー、って言わねえと分かんねーの?」

浴衣似合ってる、俺がそう言うと夢はぼんっと煙が出そうなほど顔を赤くした。

「ははっ、りんご飴みてー」
『もうっ!もう高尾くんのそういうとこやだ!』
「嫌いじゃないんだ?」
『………そういうこと言うのはずるい』

ぷいっとそっぽを向いてしまった夢にあーもう俺の彼女は可愛いなあと顔がにやけるのはしょうがないことだ。
綺麗に結わえられた髪を崩さないようぽんぽんと頭を撫で、ほら早く行こーぜ、と強引に手を握り鳥居をくぐった。


「ここの夏祭りって花火上がんねーんだよなー」
『規模がちっちゃいからね、仕方ないよ』
「でも見たかったっしょ?」

それはまあ、と頷く夢ににやりと笑う。
首を傾げる夢の前に俺が取り出したのは線香花火だった。

「バイトやってない俺には打ち上げ花火とかはちょっと厳しかったんだわ」
『…高尾くん買ってきてたの?』
「え?」
『その………私も、』

そう言って彼女が巾着から取り出したのは同じく線香花火だった。

「え?!マジで!うわーなんで買っちゃうの」
『だ、だって高尾くんとしたかったから!』
「なにこれ運命感じちゃうわー、んじゃ夢のそれチョーダイ」
『え?』

夢の手から線香花火を奪い取る。
代わりに、と渡したのは俺が買ったほうの線香花火。

「夢がせっかく俺のために買ってくれたんだから、こっちがいい。夢も俺がせっかく買ったんだからそっち使ってくれないと泣いちゃうよ、俺」
『………わたしも、こっちがいい』

顔の横に線香花火を寄せて笑う夢がもう悩殺的に可愛かった。
恥ずかしさと顔の緩みを誤魔化すために人気のないところへ移動して、早くやろうぜと急かす。
夢はぺりっと袋を開いて一本取り出した、まま固まった。

「え、なにどしたの」
『………火、ない』
「あ」

言われるまで気付かなかった。
俺らは学生なので当然ライターなんてもの持ってるわけない、つまりこれは…。

「できねーじゃん!」
『…だね』
「うおおお完全忘れてた…!馬鹿じゃん!」

頭をおさえて叫ぶ。叫んだところで火が出てくるわけないが叫ばずにはいられなかった。

『ふっ…』
「え、なんで笑ってるんすか、ちょっと」
『え?あ、笑ってた?
私、高尾くんとやることばっか考えてて抜けてたなあって』

でもデートできただけで嬉しいから、と笑い声をあげる彼女は天使かなんかですか。
と、少し頭の中でふざけていないとちょっとこれはかなりヤバイ。

「…来年、は、ちゃんと準備します」
『じゃあ私は花火たくさん買うね』

手持ち花火とかいっぱいしようね!
そう提案する彼女に俺はうん、と少しそっけない返事を返した。
わざわざ俺のために買ってくれていた夢にはちょっと悪いけど、花火しなくてよかったな。
赤くなった顔なんて、見られたくねーもん。


2013/10/02 望
◎Happy Birthday!
forまめ吉さん

 




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