05
パチパチとホッチキスの音だけが鳴る。
ちらりと高尾くんを窺うと高尾くんも顔をあげた。
「どうかした?」
『なんでも、ない』
ほんとはなんでもなくない。
どうしてここに居るの、とかなんで一緒に居るの、とか聞きたいことはいっぱいある。
「…紗月ちゃんさあ…、」
高尾くんの声で頭をあげる。
「伊藤に告白されたんだろ?良かったじゃん、伊藤わりとイケメンだし、優しいし面白いし。大事にしてくれると思うぜ」
頭が真っ白になった気がした。
よくもまあ思ってもないことをべらべら口にできるなあ、と自分で思った。
心の中ではいかないで、と誰かが叫んでいる。
そうだね、肯定する声が紗月ちゃんの口から聞こえてぎゅっと拳を握る。
泣きそうに、なんなバカ。俺は諦めなくちゃいけねーんだよ。
『…でも、好きじゃないならどんなにかっこよくても、優しくても、面白くても意味ないよ、?』
「え、…」
『あ、…ごめんお手洗い行ってくるね!』
「え、あ、ちょ…っ!」
俺の返事も聞かずに駆け出した紗月ちゃんの頬が、
「な、いてた?」
見間違いかと思ったが机の上には小さな水たまりができていた。
なんで、伊藤のこと好きなんじゃなかったのこよ。
さっきの言葉じゃまるで紗月ちゃんは伊藤のこと好きではないように聞こえた。
「意味わかんねーよ…!」
とにかく、紗月ちゃんを追わなきゃいけない。
それだけは頭の中で分かっていた。