03
やっと、紗月ちゃんと話そうと決めて昼休み、紗月ちゃんの教室に来たっていうのに俺はなんだってこんなことを聞いているのだろうか。
扉の影に隠れながら俺はそう思った。
「高科さん、伊藤に告られたらしいよ!」
………おい、おいタイミング悪すぎだろ俺。
こそこそと喋っているつもりなのかもしれないが興奮しているようで結局それなりに大きな声になっている。
周りの友達らしき人たちだ「えっほんとに?」「マジマジ!朝見た子が居るんだってー」「あーそんな感じするー」なんて好き勝手言っている。
ちらりと教室の中を伺うと紗月ちゃんは誰かと喋っていて、当然のようにその前には伊藤がいた。
伊藤そこ代われ、と心から思う。だけれどその場所を一旦捨てたのは紛れもなく自分だ。
告白されて、それで普通に喋れているようなら結果はそういうことなんじゃねえの?
俺は気付いたら紗月ちゃんの教室から離れていた。多分、それ以上見ていたくなかったんだと思う。
ああでもきっとあの二人は付き合いだしたんだろうな、と茫然とする頭で漠然とそう思ったのだ。
「真ちゃん、」
読書をしていた俺の後ろにいつの間にか高尾が立っていて、奴にしては珍しく沈んだ声で俺の名前を呼んだ。
「俺、紗月ちゃん諦める」
へらりと誰が見ても「泣きそう」と評価しそうな笑顔で高尾はそう決めて。
「………それがお前の答えか?」
「うん。紗月ちゃんが幸せならそれでいいや」
俺は「…そうか」と呟いて本に目を落とした。高尾は自分の席である一つ前の席に座る。
こういうとき、どうすればいいのだろうか。
ちらりと本から目を離して高尾を見れば机に突っ伏した頭が見えた。
そうだ、俺は紗月ちゃんが笑顔で居てくれるならそれで良い。
机に突っ伏していると机にカツンと何かが当たった。
少しだけ顔を浮かせてそれを見れば、「今日の蠍座のラッキーアイテムなのだよ」と投げたであろう真ちゃんの声。
「特別に貸してやるのだよ」
「ん、あんがと…」
受け取ったそれを制服のポケットに突っ込んだ。
…ああ、俺もおは朝信者だったらこの恩恵を受けられたのかな。なんて柄にもなく神様に願った。
2014/07/31 修正・加筆