あの子を攻略する方法 | ナノ



  02


「昨日はすまなかった」

あの偏屈でワガママ大王の、あの真ちゃんが謝った…?

俺は目の前の光景が信じられなかった。今朝練中だし…あっもしかしてこれ夢?と思うぐらいには。
だけれど紛れもなく現実だ。頬を叩いてみたら痛かった。

45度に腰を曲げて頭を下げている真ちゃんには分からないだろうが周りみてみろよ、と言いたい。
周りの目が痛い。視線が物理的な力を持っているのならきっと俺は串刺しで穴だらけだ。
宮地さんたち空見るのやめて、槍とか降ってこないから。

「あー…っと、俺も怒鳴ってごめん」
「…怒ってないのか」
「…昨日は思わずカッとなって言っちゃっただけし、実際お前が言ってたことは当たってるし」

なんだか真ちゃんが素直だと調子が狂う。
俺の前に居る奴は果たして本当にあの真ちゃんなのだろうか。やべえ混乱してきた。

「怒ってるか怒ってないかで言われたら怒ってねぇから、頼む!調子狂うからいつものワガママ緑間ログインしろよ!」
「人が素直に非を認めて謝っているというのに貴様…!!!」
「ツン真ちゃん久しぶり!」

少しだけ頬を染めて怒る真ちゃんを見て久々に笑った。

「真ちゃん」
「………なんなのだよ」
「俺もーちょい頑張ってみるわ」

そう言うと真ちゃんはそうか、と呟いて眼鏡を指先であげた。



「高科さん、高尾と全然喋ってないね」
『…そんなことないよ?』

朝から何故か伊藤くんは私の教室に来ていて、私が課題をやっているのを見ながら彼は喋っていた。
一応誤魔化してみるものの、以前と比べて激減したのは否定できない。
どうやら高尾くんも私を避けているようだ。彼の鷹の目なら余裕で出来ることだろうに。
自分から避けていたのに、…なんで私は傷ついてるんだろう。

『…ばかみたい』
「うん?なんて?」
『何でもないよ』

離れたはずなのに。
高尾くんにとっては迷惑でしかないであろう気持ちがなくなる様子はまったくなかった。

「ところで高科さん」
『はい?』
「俺と付き合う気はありますか」
『は…』

いま伊藤くん何て言った?
私はノートから目をあげて伊藤くんを見る。

「俺と、付き合ってほしい」
『っ…』

高尾くんのような、鋭い瞳。
そういえば彼の本来の目的は彼女をつくることだったか。
高尾くんに紹介されて、それで私と喋るようになって。

『…ごめん、なさい』

私は震える声でそう拒否するしか出来なかった。
伊藤くんはあー…と唸って机に突っ伏した。

「…俺と居るの楽しくなかった?」
『そんなことない、けど…』
「…好きな人居る?」
『………うん』

それ高尾?と伊藤くんは問うてきた。…ばればれだ。
どうせ誤魔化せるはずもないので私はうん、と答える。

「…あいつかっこいいし、いい奴だしね。分からなくもない、って………俺またやらかしたかな…」

伊藤くんは困った顔で頭をがしがしとかく。
原因は、分かってる。私は両手で顔を覆った。

『っ、…ごめん、ごめんなさい…っ』

ぼろぼろと涙は止まる気配もなく頬や手を濡らしていく。

高尾くんがかっこいいことや良い人なことは自分でちゃんと知ってる。
なのに、どうして私は諦めるようなことをしているんだろう。
どうして自分の方へ向いて貰えるようなことが出来ないんだろう。
伊藤くんは私に振り向いて貰おうと思ってこうして喋ってくれているというのに、その気持ちに応えられず何も出来ずにうだうだしている自分は酷く弱虫だ。

ひくっとしゃくりをあげる私に伊藤くんは「俺泣かせてばっかだなあ」と呟く。

『私が、泣き虫なだけだよ』

だから伊藤くんは悪くないんだよ。悪いのは全部私だ。

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