01
紗月ちゃんに嫌われたみたいだ、そう自覚してから日常ががらりと変わった。
紗月ちゃんに極力近寄らないようにした。これは鷹の目を使えば余裕でクリアできた。
見つけても声はかけずにそのまま見つからないように去る。顔を合わせれば挨拶ぐらいはしてそのまま去る。
とにかく近寄らない、触れないを心がけた。
まあ数日も過ぎればやっと鈍い真ちゃんも気付くわけで。
「おい。なんなのだよお前たちは」
自主練を終えて部室で着替えていた俺に後ろから不機嫌そうな声と顔でそう言ってきた真ちゃん。
なにを言いたいのかは分かる。だけれど触れて欲しくない俺は笑顔で避ける。
「は?いきなりお前こそなんなのだよー」
だが真ちゃんにそんな茶化したような誤魔化しが通じるわけがない。
案の定「茶化すな」と厳しい声と視線が刺さった。…こんの堅物が。
だが教室でこの話を出さないあたりそれなりに気遣いはしてくれているらしい。その優しさに免じて俺は真面目に話すことにする。
「………紗月ちゃん、俺のこと嫌いっぽい」
「…は?」
「だから避けてんの!以上!はいこの話題終わり!」
あーやべー…自分で言っててダメージ食らうわ、これ。
ぱん!っと顔の前で中々良い音を鳴らした手がジンジンする。
真ちゃんは未だに意味が分からん、といった顔をしているが俺だって分からないのだよ。
「紗月がお前を嫌うなど有り得るわけがないのだよ」
「おい終わりって言ってんだろー」
「ちゃんと確認したのか?」
終わりって言ってんじゃんよ、と心の中で呟く。
「してねえけど、ほぼ確定っつーか。ていうか人間なにが原因で人嫌うとかわかんねーだろ、」
「だったらちゃんと確認しろ。勘違いかもしれないだろう」
「無理、紗月ちゃんだって嫌ってる相手と喋るの嫌だろーし。つか終わりっつってんだろ。まだ続けるようなら俺帰るぜ」
ドアの方へ向かう俺の手を緑間が掴む。
なんだってんだよマジで。いい加減イライラすんだけど。
「お前はただ逃げているだけなのだよ」
「っ…お前に、」
一本の細い細い糸で踏ん張っていた。
緑間の言葉は、まるでいつも放つシュートのように、寸分の狂いもなく真ん中を射ていた。
切れたら、切れたら支えるものはなくなって塞き止めていたものが溢れ出す。
ほぼ反射で叫んでいた。
「お前に何が分かんだよ!!」
俺見ると泣きそうな顔する紗月ちゃんに面と向かってどうしてそんな顔をするのか、なんて聞けない。
そんな顔見たくなくて、そんな顔させてる自分が嫌で嫌で仕方なくて。
だから原因であろう俺が紗月ちゃんの近くに居なければいいんだと勝手に決めつけて。
でも、傍に居たくて堪らなくて。
結局どうにも出来ない俺は胸の中で燻っていたものを緑間に八つ当たりという形で爆発させてしまった。
緑間の呆気にとられた顔が目に入りはっと頭を回転させた。
そして俺の腕を掴んでる力が弱まっていることにも同時に気付く。
「わりぃ!帰る!」
腕をさっと引き抜き、ダッシュで逃げた。
真ちゃんが追ってこないことに心底安心した。
2014/07/29 修正・加筆