03
「アドレスゲットしちった」
語尾に星でも付きそうな口調で奴は朝っぱらから俺に爆弾を落としてきやがった。
「はあ?!嘘だろ!」
確か紗月ちゃんは知らない奴にアドレスは教えない子のはずだ。俺は間近でアドレス交換を断るのを見たことさえある。(アドレスを持ってる俺は優越感に浸っていたわけだが)
「嘘じゃねーよ。喋って意外と気が合ったからこの通りだ」
伊藤は俺の前に携帯を出す。まさに水戸黄門の印籠のように。
そして画面には俺の携帯に登録してある紗月ちゃんのアドレスと同じものが記されていて。
「くっそお前…!」
「いやー、悪いな高尾。昨日の夜も楽しくメールさせてもらったわ」
履歴みる?と聞かれたが見た瞬間携帯を割ってしまいそうなのでやめておいた。あと現実見たくねえ。
俺はガラケーじゃなくても折るときは折る男だよ。
だが現実がそんな甘いわけがない。
俺の意思を無視してその嫌な現実は昼休みにその目に、頭に唐突に投げつけられた。
「ファッ?!」
伊藤の教室の前。廊下の窓の側で二人並んで喋っているのが見えた。
「おい、…あいつは誰なのだよ」
隣に並ぶ真ちゃんが伊藤のことを指さして言うがそれどころじゃねーのだよ!
「なん、ちょ…え?!マジで仲良くなってる?!」
「おい落ち着くのだよ、高尾」
真ちゃんの言葉に被さるようにして「あれ、高尾じゃん」と聞こえた。
「あ、緑間もだ。俺、伊藤って言います、よろしくー」
「…ああ、」
緑間と伊藤が挨拶しているが俺の視線は紗月ちゃんに固定されている。
紗月ちゃんも俺のことを見つめていた。
それだけなら幸せに浸れるのに紗月ちゃんは困惑したような顔を見せて、まさに「俺に会いたくなかった」とでも言うような表情をさせていた。
なんで、どうして、一体なにがあったの。俺は紗月ちゃんに何かしたのか。
疑問はぽんぽんと絶え間なく沸きでてくるがそれを言葉にはできなかった。
…正しくは、言葉にする隙もなかった。
『ごめ、伊藤くん私もう行くね!』
「あ、うんありがとう」
『真ちゃんも、っ…高尾くんもじゃあね!』
紗月ちゃんはまさに逃げるように教室の中へ入ってしまった。
「…じゃ、俺も行くから」
伊藤も紗月ちゃんが居なくなればここに留まる意味もない。
そして、俺と真ちゃんだけがその場に残されて。
「…お前、紗月に何をしたのだよ」
「知らねえよ!俺が聞きたいよ、そんなの…!」
どうやら俺はマジで紗月ちゃんに避けられてしまっているようだ。
そして何をしでかしてしまったのか分からない俺には打開するための策などひとつも出せやしない。