02
「えーと、高科さん」
『…あ、私ですか?』
後ろから自分の苗字を呼ばれた。
聞き覚えがない声だったのでスルーしていたがどこからも声があがる様子がなかったので自分のことかと気付く。
振り返ると知らない人で。首をこてりと傾げた。
『え、っと…』
「こんにちわ」
『あ、はい、こんにちわ…』
誰だろうこの人。
彼はそれなりに整った顔をにこりと変えて私に近寄る。
「俺、高尾の友達で伊藤って言います。たまに高尾と喋ってるの見たことあって可愛いなあって思って」
『あ、えと…ありがとう、ございます…?』
とりあえずこの伊藤くんとやらが高尾くんの友達ということが分かった。
そして自分が褒められているということも。
「やっぱ可愛いね」
『あ、う…その嬉しいけど言われ慣れてないので恥ずかしいからあんまり言わないで、欲しいな』
「じゃあ言う」
『伊藤くんひどいね!』
ひどい!あんまりだ!私がそう言うと伊藤くんはごめんつい、と笑う。
彼とは初対面なのに漂う雰囲気が高尾くんと似ているせいか普通に喋れている。
類は友を呼ぶ、とはよく言う。
「高科さん、アドレス教えて」
『いいよー、悪用しないでね』
「そんなことするような奴に見えんの、高科さんひどー」
『これでさっきからかったのはチャラだよ』
伊藤くんが私の携帯と自分の携帯を合わせて赤外線でアドレスを交換する。
自分の携帯を見て、んっ!と満足げに笑った。
「よっしゃ、オッケー。メールとかしちゃダメな時間とかある?」
『うーん…勉強中は気づかないからそのときはダメっていうか返信来ないと思う』
「分かった、じゃあ返信こなくてもめげずにメールするわ。ありがとう高科さん」
じゃっ、と軽く手をあげて挨拶する伊藤くに私も手を振って返した。
「高科、あいつ誰だ?」
『わっ?!』
今日は後ろから呼ばれるのが多い日だなあ…。
しかも今回は本人にそういう意思はない(と信じたい)けれど結果的に驚かされた。
『び、びびびっくりしたあ…』
「悪い…。脅かすつもりはなかったんだ」
『いえ、大丈夫ですよ。こっちも大きな声出しちゃってすみません』
大坪先輩が目を丸くして私の後ろに立っていた。
その後ろには宮地先輩と木村先輩も。
「で、高科あれ誰だ?まさか彼氏か?」
「なんだって?!高尾が死ぬから今すぐ考え直せ!でないと記憶飛ばす!」
『違います!普通に友達…になった人です!』
木村先輩の問いにいきなり慌て出す宮地先輩。意味がわからない…。
「高科、そんな知らない奴とアドレス交換なんて軽々しくするもんじゃないぞ」
「そうだそうだ、緑間がストレスで胃に穴があくぞ。あいつなんだかんだで過保護だしな」
「あいつはオカンか!」
そう口々に言う先輩たちも中々過保護だと思う。
『大丈夫ですよ、』
「そういう油断がよくないぞ」
『あ、違うんです。彼、高尾くんの友達らしいので、だから大丈夫ですよ』
そこまで言い終えてから次が体育だったことを思い出した。
『すみません私急ぐんで!』
「あ、ああ…気をつけてな 」
なんだか先輩たちの顔がポカーンとしているように見えたけれどきっと何かの気のせいだ。
「…あいつら喧嘩してんじゃねーの?」
高科の小さくなっていく背中を見ながら宮地が呟いた。
高尾が高科に避けられる、と言っていたのでてっきり喧嘩か高尾が高科を怒らせていると勝手に納得していたのだが今の様子じゃどうやら違うようだ。
さっきの言葉は高尾を10割信頼していないと出てこない言葉のはずだ。
「高尾も今のとこ練習に支障がない程度にはダメージ食らってるからなぁ…」
「いやHP1で無理矢理立ってるような状況だろ」
「さっさと解決して欲しいモンだがな…」
口出すぐらいは出来るものの、こればっかりは当人同士でどうにかして貰うしかないのだ。