01
今日も、紗月ちゃんに会えませんでした。
俺は携帯の秘蔵紗月ちゃんフォルダでなんとか傷を癒す毎日です。
そんな俺の傷を容赦なく抉り更にはその傷を真上からぐりぐりと踏みつける鬼のような奴が来ようとは思いもしなかった。
「なー高尾、頼みがあんだけどさあ」
突然訪れたのは隣の隣のクラスで中学からの友達である伊藤だった。
「紹介して欲しい子が居るんだよな」
「知るかリア充になろうとしやがっててめえこの野郎!俺は今傷心中なんだよほっとけ!」
完全に八つ当たりだ。そんな俺を伊藤は意にも介さず現在不在の真ちゃんの席に座って勝手に話を進める。
「高科紗月ちゃんって子。お前仲いいだろ?」
「話勝手に進めんなよ…って紗月ちゃん?!」
「うん、その紗月ちゃんを紹介しろっつってんだよ」
なんで、いきなりこんな横からライバル現れてんの?横っつーか背後?完全に想定外だったよ!
「…いやだ。っつーかだめ。なんで紗月ちゃんのこと好きなんだよ大体」
「可愛いじゃん、なんか小動物みたいで。ていうか、なんでダメなの?」
俺が好きだからだよ!!と叫んでしまいたかった。
しかし伊藤に言ったところで俺の思いが実る訳ではないのでぐっと口を噤んだ。(真ちゃんに紗月ちゃんが好きすぎて辛いなんて言っているあれは例外だ。独り言のようなものだ。いくら真ちゃんが嫌そうな顔したってあれは独り言なのだ。)
「………紗月ちゃん、そういう紹介されるのとか嫌いだし、」
「ふーん。じゃあ自分からいけばいいんだな。貴重な情報ありがとう高尾」
紹介されないと喋れないと見くびっていたのが悪いのか、それとも俺がした言い訳の歯切れが悪かったせいなのか、とにかく完全に利用された気がする。
伊藤は満足した情報を俺から引き出せたのか真ちゃんの席から立つ。
「俺が落としても文句いうなよ、高尾 」
その言葉は完全に、俺が紗月ちゃんのこと好きだということを知っている口ぶりで。
カッとなって俺は思わず叫んでいた。
「っ、やんねーよバカ! 」
「それを決めるのはお前じゃないだろ」
伊藤の言葉がぐさりと刺さった。
言い返せない俺に伊藤はじゃあな、とにこりと笑って去っていった。
「っ…くそ、」
握った拳は机に叩きつけられた。ああ、痛い。