あの子を攻略する方法 | ナノ



  01


真ちゃんに伝えることがあって体育館を訪れた。
近くに居た木村先輩に頼んで真ちゃんを呼んで貰う。
暇になった私は体育館をぐるりと見回した、ら。
衝撃的な光景が目に入った。
それこそ真ちゃんに伝える内容(今日の晩御飯は私の家で食べることとか、お母さんが今日は真ちゃんが来るから気合いを入れると言っていたこととか)が頭から一瞬吹っ飛ぶくらい。

『高尾くん、と…?』

休憩中らしき高尾くんの隣には女の人が居て、ここからじゃ高尾くんの背中しか見えないけれど女の人は楽しげに話していた。

「気になんの?」

いきなり後ろから声をかけられ思わず悲鳴をあげる。

『宮地先輩!脅かさないでくださいよ!』
「後ろから声かけただけだろ」
『まあそうなんですけど…』

あれ、気になんの?と今度は指差し付きでまたそう重ねて問いかけられて私はこくりと頷いた。

「あー…夏前くらいにマネージャーになった二年。………高尾に気があるみてえだけど」
『そ、ですか…』
「…しょげんなって。高尾も先輩だから邪険にできねぇだけだから」
『そうだと、いいんですけど…』

毒舌で有名なあの宮地先輩から励ましの言葉がでたあたり私は自分で思っている以上に落胆しているらしい。
まあ頑張れよ、なんて宮地先輩は私の頭を軽く叩いた。


あーもう何なんだよもおおお…!!!
イライラするのを内にため込んであーそっすねーなんておざなりな相槌をうつ。
「ちゃんと聞いてよ、高尾くーん」じゃねえよ…!どーでもいーよ!

間延びした声を耳に入れるのも嫌になるくらい正直この先輩は苦手だ。
中学からマネージャーをやっていたらしく手際はそこまで悪くないが休憩時間の度に俺に近寄ってくる。
ここで手際が悪かったら弾けるのに。ああくそ、世界はほんとうまくいかない。

勘弁してくれよ、ほんともう。
誰か助けてこの際もう誰でも良い。投げやりにそう思ったら体育館に小さな悲鳴が響いた。

『み、宮地先輩!脅かさないでくださいよ!』

え、ちょ、紗月ちゃんだし。
えっていうかなんで宮地さんと話してんの。
「ねえちゃんと聞いてよね、高尾くん!」じゃねえんだってばほんと、腕触んないでくんねえかな。
って、ちょっと宮地さんなに頭撫でちゃってるんっすか。

「ちょっと用事あるんで」
「え、ちょっと!」

高尾くん!なんて後ろで呼び止められるが俺の知ったことじゃない。


「紗月ちゃん」
『え、高尾くん…?』

なんで、というような顔で俺を見る紗月ちゃん。

「真ちゃんに用事?」
『うん。…ねえ、あの人放っといて良いの?』

そう言って俺がさっきまで居た方向を指差す紗月ちゃん。
ああやっぱ見られてた、サイアク。俺の中でもう地面まで下がっていたあの先輩の評価が地中に潜った。この調子ならもうすぐで核に突入だ。これで俺と先輩が付き合う確率は0だ。小数点以下もない。そもそも付き合う気すらないのだが。

気にしないで良い、と伝えようとした俺に被る真ちゃんの声。

「紗月、どうした」
『真ちゃん…』

真ちゃんが登場して俺の話題はそこで終了したらしい。
休憩時間もそろそろ終わりでトイレに行っとこー、と紗月ちゃんと真ちゃんの側から離れるとまたあの先輩が近付いてきた。

「ねえ、あの子緑間くんの彼女?」
「先輩には関係ないっスよ、すいませんもう練習始まるんで」

できるだけ人との揉め事は避けたい俺にしては珍しく機嫌を前に出した、不機嫌さが滲みでた喋り方だったと思う。

俺がそう言うと雰囲気を読み取ったのか先輩は目をぎょっと丸くしさせて「そうだよね、ごめんね」と笑って去っていった。
ああちょっとすっきりした。


キュキュッとバッシュの音が響く体育館。
私の視線は一人に固定されていて、スコアをつけながらもその姿を追う。

「やっぱり、高尾くんが良いなあ…」

そのためには、さっき居たあの子が邪魔だ。

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