02
『真ちゃん!変じゃない!?』
そう言って俺の前でくるりと一回転して白のフレアースカートを翻す紗月。
はあ、とため息をつくと真面目に見てよ真ちゃん!と怒られる。解せぬ。
俺はこのためだけに紗月の家に派遣された。
なんで幼馴染みが自分のチームメイトとデート(本人は否定するが誰がどう考えてもそれはデートだ)する服装を俺が見なければならないのだよ。
「変じゃない」
『ほんと?』
「ああ」
良かったー、なんて安堵した顔には薄く化粧が施されている。
ああ、俺もやっと解放されるなんてため息をつくと紗月が『…真ちゃん、お願いがあります』と頼んできた。
…今になって頼むということは。
「…髪か」
『さすが真ちゃんお願いします!』
そう言って差し出されるアイロンと櫛。
昔から出かける度に俺に頼んでくるものだからストレートアイロンからカールまでお手のものだ。俺は女子じゃないのに解せぬ。
出来ないのなら何故買う、と言ったことがあるが紗月曰く真ちゃんのほうがうまいから!だそうだ。答えになってないうえに解せぬ。
何度も言うが解せない、非常に。だが俺ははあとため息をついてアイロンを受け取った。
長年の付き合いでこいつには何を言っても無駄なことは悟ったのだ。
「…カールか、ストレートか」
『カールでお願いします!ゆるふわな感じで!』
言うが早いがもう俺の前に座っている。
はあ、とため息をまた一つついて紗月の髪をコテで挟んだ。
『高尾くん!』
真ちゃんにふわふわにして貰った髪を揺らして待ち合わせ場所に行くと高尾くんが見えたので思わず叫んだ。
私の声に高尾くんは直ぐ反応してくれてにこりと笑って手を振った。
「はよ!」
『おはよ!』
壁にもたれ掛かっていた高尾くんは体を起こして私に向き直る、とじいっと穴が空くぐらい私を見る。
えっ、やっぱり変!?
『た、高尾くん…?』
「あー、いや…私服可愛いなあって」
いきなり先制攻撃なんて勘弁してくださいよ高尾くん。
私は思わず言葉につまった。
『たっ、かおくんもかっこいいよ…』
「マジ?気合いいれてきたんだよな、紗月ちゃんこういうの好み?」
そう言って服の袖をぴらりと捲る。私がこくこく頷くと高尾くんは「そっか、覚えとく」と笑った。
「ていうか髪もいつもと違うね。自分でやったの?」
『真ちゃんにお願いしたの』
「ぶっは!マジか!真ちゃん器用すぎ…!」
私の髪を巻いている真ちゃんを想像したのか高尾くんはお腹を押さえて笑っている。
「あー腹いてえ…!ぶふっ」
『今日、どこ行くの?』
「紗月ちゃん買い物とか好き?」
『え、好き!』
「じゃ、とりあえず駅前のショッピングモール行こうぜ」
そういえば最近買い物してないなあ、と思った。
それにもうすぐ秋だし秋物買おう、と思っていると目の前に手が差し出された。
『え、』
「人多いからさ、迷ったら大変だろ?」
手貸して、そう言って高尾くんは返事も聞かずに私の手をとった。
『高尾くん…!?』
「ダメ?」
『ダメじゃっ、…ないけど』
「じゃあ良いじゃん、行こうぜ?」
ダメなのは私の心臓なの!なんて言えたらこの手を離してくれるのだろうか。