05
たまに揺れる車内で肩に乗っかる重みに目を向ける。
『すー…』
規則的な寝息に閉じられた瞳。
紗月ちゃんの頭が電車に乗ってからこくこくと動き出したので、俺が肩に乗せた。
最初こそ慌てて断っていたものの俺がいいから!いいから!と押し切りこの状態に落ち着いた。
「はー…」
紗月ちゃんは寝ているので遠慮なしに長いため息をつく。
仲良さげに喋る赤司と紗月ちゃんを見て、 別の誰かだったらいいのにと本気で思った。
そんで見たくなくて、逃げるみたいに進む方向を変えて。
俺だけ見てて欲しい。俺にだけ笑いかけて欲しい。
沸々と黒い感情が沸き上がってきて、冷ますためには俺は彼氏じゃないとずっと唱えていた。
「俺のだったら、いいのに」
呟いた言葉を叶えるためには告白してしまうのが手っ取り早いのに、臆病で欲張りな俺はこの近すぎず遠すぎない距離を手放したくはないんだ。
ねえ、だってさ。俺が告白しても紗月ちゃんがこの距離に居てくれる確証なんてどこにもないんだぜ。
だったら、このまま。
「…は、ダメだよなあ」
ほんとに色々とままならない。たまに全部投げ出したくなる。
でもきっと紗月ちゃんが全部拾ってくれる。ゴミとか傷とか全部とったものを拾って俺にくれる。捨てちゃだめだよ、なんて笑いながら。
だから俺は紗月ちゃんが好きなんだ。
「…」
紗月ちゃんの方へ顔を向けると俺が結んであげた髪も一緒に目に入る。
これだって独占欲のカタマリだ。
でもこんぐらいさあ、独占したってよくねえ?
俺は顔を少し傾けて紗月ちゃんのつむじあたりにキスをした。
ほんとのところ独占したいのは全部なんだけど、それはまだまだ秘密である。