04
「………そんじゃ、帰ろっか?」
『う、うん』
私は高尾くんに右手を引かれながら顔を真っ赤にしていた。
頭で再生されるのはさっきの征くんの言葉。
「紗月は高尾くんが好きだろう?」
ぼそりと耳元で囁かれた言葉は的を射すぎだ。
なぜこの短時間でバレた。
慌てる私をほっといて、征くんは「ああやっぱり」と微笑んだ。
どうしよう、征くんにばれちゃった…。
いや多分本人にバラしたりとかそんな悪趣味なことはしないと思うけど、昔馴染みの人に知られたこの気恥ずかしさ!
「紗月ちゃん」
うあああああ…!と悶えていると高尾くんがいつの間にか振り返っていた。
『うあ…』
「今日髪おろしてんだね」
『あ、うん…』
空いた手を高尾くんが伸ばして私の髪に触れる。
どきりとしたが悟られてはいけない。本人にバレるなんてそんな話笑えない…!
「はじめて見たかも、おろしてるの」
高尾くんの指先が髪をいじる。
『学校じゃ暑いからあんまりやらないかな…。それに自分じゃ簡単にしか結べないし』
「…それじゃ、俺がしていい?」
『え?』
「俺、妹ちゃんのやったりするから結構綺麗に結べるよ」
その手腕はいつかに髪の毛をお団子にしてもらったときに知っている。
困惑している間に半ば強引にそのへんにあったベンチに座らされた。
「紗月ちゃんの髪、癖っ毛だよな」
『うん、遺伝かなあ。お母さんも癖っ毛なの』
後ろで私の櫛で髪を梳く高尾くんが私に問いかける。
ちなみに私はベンチの端に座っていて、高尾くんは私を足の間に挟むようにして座っている。
正直………心臓に悪いです。
「そっか、ふわふわしてて可愛いよなー」
『そ、そうですか』
可愛いのは髪!可愛いのは髪!
頭の中でその言葉を連呼する。高尾くんはこの間から勘違いしそうな言葉が多いですね!よくないと思うな!
「赤司と居るの見たとき、一瞬誰かと思った」
そう言った高尾くんの声がなんでか悲しそうに聞こえて思わず『高尾くん…?』と声が出てしまった。
高尾くんは「ん?」といつも通りの声になっていた。
…私の気のせい、かな。
「はい!でっきあがり!」
十分ほどで高尾くんは私の髪を可愛くしてみせた。
後ろが見えないので高尾くんに携帯で撮ってもらって見せて貰う。
『うわあ…すごい、高尾くん…』
髪の毛全部を編み込んで、最終的に三つ編みになっていて、高尾くんの器用さが伺えた。
「気に入った?」
『うん!…だけど自分じゃ出来ないよね、これ』
「言ってくれたら俺がやるよ、楽しいし」
『えっほんとう!?』
紗月ちゃんが良いならな、と目を細めて笑う高尾くん。
『いいっていうか、お願いしたいくらいだよ』
「ん、じゃ呼んでくれたらすぐ行くよ。そんじゃー帰りますか」
時計をみれば真ちゃんたちと別れてから随分と時間が経っていた。
「あっ、どっか行きたいとかある?」
『ないよー、高尾くんは?』
「俺もねえなー。じゃあ大人しく帰ろっか」
気付いたらまた手を握られていた。高尾くんを見ればにっと笑っていて。
ああやっぱり好きだなあなんて改めて思った。