03
鬼の合宿三日間を終え(いやあれはマジで鬼がいた…。宮地さんとか宮地さんとか宮地さんとか)誠凛より一足先に帰った俺はインターハイの準々決勝、つまり海常対桐皇の試合を真ちゃんと見に来ていた。
なぜか真ちゃんはサングラスをかけてきたが。(多分黒子たちにばれたくないんだろうけど桐皇の桃井ちゃんにはばれていた)
それにしてもマジ、黄瀬といい青峰といいとんだバケモンである。
そういうと隣に居るこの緑間真太朗という男は「お前の目の前にも居るだろう」とドヤ顔してきたわけだが。
「あれ、…赤司じゃね?」
会場の外に真ちゃんと出た俺は、遠くで誰かと喋っている赤司を見つけた。
確認のために真ちゃんに聞くと、ああと頷いた。
しかし誰か、というのがどうやら女の子のようで。
「彼女持ちかよ!爆発しやがれ!」
「喋っているのは紗月だな」
「はぁ?!」
目を眇めて赤司の方を見る緑間がぽつりとそんなことを呟く。
聞き逃せない言葉が聞こえたんですけど…?!
「今日は試合を見に行くと言っていたのだよ」
それを早く言えよ緑間!と思った俺は真ちゃんにキックをいれようとしたが華麗に避けられた。腹立つ。
「つかなんで言わねーんだよ」
「聞かれなかったからなのだよ」
小学生か!と言いたくなるような返しであった。ほんとこいつ頭いいくせに固いわ。バカと天才は紙一重ってよく言うよな。
赤司と紗月ちゃんの方へ顔を戻すとどういう話の流れか知らないが赤司が紗月ちゃんの髪にふれていた。
じわり、となんだか胸の中から黒いものが沸きあがった気がした。
「…あの二人って仲いいんだな」
「ああ、本の趣味があうとかでな」
「…」
黒子の言っていたことはホントのようだ。(別に疑ってたわけじゃないけど)
まさかの新たなライバル出現である。そんなとこからの出現は予想してない。
しかもあのチート大魔王(ただし患っている)の赤司なんてもし紗月ちゃんのことが好きだったら勝てる気がしない。…だからって諦めるってわけじゃねえけどさ。
「…真ちゃん、いこ」
「喋らなくていいのか?」
「楽しそうに喋ってんだから邪魔しちゃダメだろ」
真ちゃんの袖をぐいっと引っ張って反対のほうへ歩き出した。
「紗月、後ろのあれは真太郎じゃないのか?」
征くんがいきなり後ろを指しそう言う。
振り返ると遠くではあったけれどあの長身で更に目立つ緑頭では見間違うはずはない。となりには高尾くんが居た。
「行こう、久しぶりに真太郎と喋りたい」
『うん』
征くんに右手を引かれながら私は真ちゃんたちの方へ向かった。
「真太郎」
「…赤司」
後ろから凛とした声がかかる。…一瞬眉間にシワが寄ったが振り返るときには表情を繕えていた。
「予選敗退残念だったね」
「ウィンターカップには出るから問題はないのだよ」
中学時代とはうって変わった金色と赤色の瞳が細くなる。なにが楽しいんだ。
そして赤司の顔は俺の隣に居た高尾に向けられる。
「君が、高尾和成?」
「…ドーモ」
「真太朗が世話になっているね。…ああ、紗月もか」
(なぜか)手を繋いで後ろに居た紗月をからかうと紗月はうっ…と唸った。
『…なんで分かるの征くん』
「昔も君はどこか抜けていたからな」
高尾にちらりと顔を向けると、日頃からは考えられそうにないぐらい無表情だった。
正直うわあ…、と思ったのだよ。
気を回すのは苦手だし、だからと言ってこのままの高尾と帰りたくはない。
はあ、と小さくため息をついて俺は口を開いた。
「赤司、このあとちょっといいか」
『えっこのあと征くんと本屋行こうと思ってたんだけど…』
「ああいいよ、また今度で。紗月は高尾くんと帰ればいい」
『え…、でもいいの?』
「真太郎の頼みだ、断れないよ。それに…」
赤司が紗月を呼ぶ。そして耳に手を当てて何かを囁く。
『っ…!?』
「…ほんとに、紗月は分かりやすいね」
紗月は音をつけるならぼんっとでもするのか。とにかくすごい勢いで顔が真っ赤になった。
隣から黒いオーラが見えるが、きっときのせいなのだよ。
「………赤司、行くぞ」
「それじゃあ、紗月と高尾くん。また冬に会えたらいいね」
呆然としている二人を放って俺と赤司は並んで歩く。
「…ふ、」
突然、堪えきれないとでも言うのか。赤司が吹き出した。実際堪えられなかったのだろう。
「…悪趣味なのだよ」
「だって二人とも面白いだろう、反応が」
「それを悪趣味というのだよ!」
もうしないよ、と言ったが信用ならないことは中学時代で経験済みだ。