01
『んー…!』
背伸びをすると椅子がぎっと軋んだ。
机の上に山積みに積まれている課題。
秀徳は進学校なので課題が多いがそれでも夏休みに入る前に三分の一ぐらい終わっていて、やることもない私は半分ほど終わらせてしまった。
くてりと上半身を机の上に投げ出して窓の外を見ると、お隣である緑間宅の二階、真ちゃんの部屋が見える。
薄緑色の落ち着いた色のカーテンは二日前から朝から晩まで閉まったままで、部屋の主である真ちゃんは所属する秀徳バスケ部は二日前から一軍調整合宿に行っている。
つまり高尾くんもそれに参加しているわけで。
ちらりと机の片隅に置いている携帯に目をやる。
連絡するの、迷惑だよね…。
只でさえきつい練習が合宿ということでみっちり設定されている。
夜はゆっくり休んで貰いたい、声が聞きたいというのは私の我儘だ。
『合宿、いきたかったなー…』
今更言っても仕方のないことだけれどそう呟いて私は目を瞑った。
頭の中でリピートされたのは合宿の前日に高尾くんとした電話の会話だった。
「紗月ちゃんと会えないのやだな」
と、場合によっては勘違いしかねない言葉が電話の向こうから送られてきた。
多分高尾くんにとって何気ない呟きだったのだろうと思う。それでも殺傷能力はばつぐんだ!というナレーションが頭の中で再生される。
『え、あ…でも、ほら、女のマネージャーさん来る、でしょ?』
「うん、…でも俺は紗月ちゃんが良かったな」
それどういう意味?でもこれって聞いていいの?
迷っている間に高尾くんを呼ぶ声が聞こえた。
「あーはいはい!今入るから!…ごめん紗月ちゃん、俺風呂入って多分そのまま寝ると思う」
『あ…ううん、大丈夫だよ。明日早いんでしょ?真ちゃんなんかもう寝てるよ』
「ぶはっ!早っ!小学生かよー、そんじゃおやすみ」
『おやすみなさい』
結局聞くことができず、電話を切ってしまった。
私もそのあとに眠くなってしまって、あの言葉に意味があればいいなあ、なんて思いながらベッドに入った。